関東鉄道キハ900形と異なり国鉄キハ35系は外づり扉となってしまった理由

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写真1 関東鉄道キハ900形と国鉄キハ35

 関東鉄道キハ900形と国鉄キハ35の側面写真を並べてみました。いずれも3扉で、車内はロングシート、屋根上にはグローブ形通風器があり、典型的な通勤形車両です。さらに、車体幅2800mm(うるさいこと言うと台枠寸法)、車体長19500mm、台車間距離13800mmも同一です。

 ところで、両形式は客室扉の外観が大きく異なっています。キハ900形は扉が車体外板の内側にあるというごく一般的な構造であるのに対し、キハ35を始めとしたキハ35系(キハ30、キハ35、キハ36をまとめた通称)の場合は外づり扉、すなわち車体外板の外側に扉を取付けるという特異な構造になっています。この差異の大元の理由は、床面高さの相違です。

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 キハ900形が登場した頃、当時の常総筑波鉄道(のちの関東鉄道)においては混雑時の乗降を容易にするため、車両床面とプラットホーム上面の高さの差を減らすため、「①車両床面高さを下げる」「②プラットホーム上面を高くする」のふたつの対策を同時に進めていました。①の対策に関して、車両間を幌でつながない…すなわち車両床面高さがバラバラでも問題ないということも有利でした。(下記記事もご参照ください。↓)
幌でつながなかったからこそ床面高さを下げられたというお話

 キハ900形は床面高さ1153mmなので客室扉下部の踏段が不要となり、素直に台枠の上に客室扉を位置させるというごく一般的な構造・外観となりました。

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 それに対して、国鉄キハ35系の場合は厄介でした。国鉄気動車は車両間を幌でつなぐことを原則としていますから、床面高さは1250mm基本で統一されています。したがって、通勤形だからといって「①車両床面高さを下げる」対策は困難です。また「②プラットホーム上面を高くする」といっても、路線長が短い私鉄とは異なり、国鉄全線のプラットホームを改良するのは現実的ではありません。踏段は必須となります。

 その結果、両開き3か所の客室扉移動範囲は、台枠の側梁(車体外板のすぐ内側にある床の骨組み)を切断してその内側へ補強梁を追加しなければなりません。したがって車体前後方向のかなりの部位に補強梁を取付ける必要が生じてしまいます。申すまでもありませんが、気動車の床下にはディーゼル機関を始めとした大きな機器をつり下げる必要があります。補強梁だらけになると、この機器つり下げを妨げてしまうのです。

 あちらを立てればこちらが立たず…このような状況を避けるため、仕方なく客室扉を外づりにして戸袋部をなくし、側梁の切欠きを最小限にするようにしたわけです。当時の国鉄設計者たちの苦労がしのばれます。

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ちかてつ
さかてつでした…