関東鉄道キハ720形の逆転機減速比が標準より大きかったというお話

関東鉄道キハ720と加越能鉄道キハ180と原動機出力

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写真1 関東鉄道キハ721

 以前ご紹介した関東鉄道キハ720形キハ721ですが、この車両には見えないところに特徴があります。逆転機の減速比が大きいのです。これは、加越能鉄道キハ180形キハ187として新製された時からであり、国鉄キハ41000形と同じ3.489です。これに対して、国鉄キハ42000形以降の一般ディーゼル動車では減速比2.976です。

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写真2 台車

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写真3 逆転機

 逆転機とは、車両の進行方向を切り替える装置です。車両の床下にはディーゼル機関と変速機が吊り下げられていますが、いずれも回転方向が決まっていて、逆回転させることはできません。逆転機により、車軸および車輪の正転/逆転を行なうわけです。

  変速機の出力は推進軸によって逆転機に伝えられます。写真2はキハ721の台車ですが、その台車をディーゼル機関側から見ると写真3のように逆転機が取付けられています。ここに推進軸が接続されるわけです。

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図4 逆転機の構造

 逆転機の内部は図4のようになっています。変速機の出力は推進軸により逆転機の主軸に伝えられます。ここまでは一方向の回転ですが、主軸傘歯車①には逆転傘歯車②②’がかみ合っており、お互いに逆回転しています。小歯車③を逆転傘歯車②②’のいずれにかみ合わせるかにより、小歯車③の回転方向が変わります。小歯車③には大歯車④がかみ合っており、車軸と車輪を回転させるようになっています。冒頭に記した「逆転機の減速比」とは、主軸を何回転させると車軸が1回転するか、という値です。

 それでは、ディーゼル機関が最高回転数1800rpmで車輪径820mm(新製時は860mmだが、780mmまで摩耗を許しているので、中間の値である820mmを適用)の場合に最高速度はどうなるか計算すると、下記のようになります。減速比が大きいと最高速度が下がる分、低速における加速性能は良くなります。

 減速比2.976の場合:最高速度93.5km/h(公称95km/h)
 減速比3.489の場合:最高速度79.8km/h

 ちなみに、加越能鉄道においてはキハ180形だけでなく、それ以前に新製されたキハ120形も減速比3.489です。何かを意図して減速比を大きくしていたようです。

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写真5 加越能鉄道加越線の最急勾配

 キハ180形が使われていた加越能鉄道加越線の最急勾配は、国鉄城端線を跨ぐ箇所(写真5)にありました。しかしその勾配は16.7‰でそんなに急ではなく、長くもありません。この短い勾配のために減速比を大きくしたわけではなさそうです。

 その一方で加越線の駅間距離は平均1.5kmと比較的短かったため、加速性能を重視して減速比を大きくしたのかもしれません。

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ちかてつ
さかてつでした…