昔、関東鉄道にキハ720という形式の気動車がいました。車番(車両の記号番号)としてはキハ721です。写真1はその外観、写真2は連結面に記されている文字です。
この車両、東京オリンピックの年に生まれました。「東京オリンピック? まだ半年先の話ではないか?」と思われたかもしれませんが、そうではありません。東海道新幹線開業、東京モノレール開業の年にも東京オリンピックがあったのです。
さて、この車両が生まれたのは上記の通り東京オリンピックの年、つまり1964年ですが、最初から関東鉄道にいたわけではありません。就職したのは富山県の加越能鉄道でした。その時の形式はキハ180、車番はキハ187。「なるほど、キハ180形は7両以上製造されたんだな。」と思われたかもしれませんが、またまたそうではないのです。キハ180形は1両しか存在しませんでした。ではなぜ「7」なのか?
実はすでにキハ120形のキハ125とキハ126がいて、「5」「6」が使用済だったからです。ではその前は?ということになりますが、「4」は縁起が悪い数字なので使用せず、「3」号車としてはキハ170形キハ173が存在し、その前はキハ160形キハ162が存在し…という具合でした。
さらに申すと、キハ180形の「180」はディーゼル機関の連続定格出力(馬力:PS単位)でした。キハ120形の「120」も同じ意味です。
富山県には富山地方鉄道があり、高岡周辺(県西部)には戦後富山地方鉄道から分離した加越能鉄道がありました。両社に共通しているのは、「車両の形式に原動機出力を入れる」というものです。ただし加越能鉄道においてその書き方は統一されておらず、こんな感じでした。
キハ15000形 キハ15001(1両だけ存在) 機関出力150PS
キハ160形 キハ162(1両だけ存在) 機関出力160PS
キハ180形 キハ187(1両だけ存在) 機関出力180PS
富山地方鉄道では「出力の数字」と「号車の数字」を分離して(並べて)います。たとえば写真3の場合は電動機出力が100PS(75kW)ですが、形式モハ10050の上位3桁が「出力の数字」であることがわかります。しかし、キハ180のように2種類の数字を足してしまうとややこしいですね。たまたま出力の1の位が0だからよかったものの、たとえば機関出力155PSの3号車だったらどうするんでしょうか? 155+3=キハ158? これでは何だかわかりませんね。
さて、加越能鉄道の加越線は札幌オリンピックの年(1972年)に廃止になり、そのためキハ180形は職場を失いました。幸い関東鉄道に再就職できることになり、キハ720形キハ721と名前を変えた上で働き始めました。関東鉄道における形式は原動機出力とは関係ありません。「すでにキハ710形が存在したから」というのが720という数字の根拠のようです。国鉄のような規定がきちんと定められず、その時の気分でそれっぽく形式を定めるところが地方私鉄らしくていいですね。
関東鉄道キハ721が世を去ったのは1989年のことでした。
以上
ちかてつの
さかてつでした…