1.はじめに
地下鉄は建設費用を削減するため、民有地を通らずに道路下を通るように建設するものです。都営地下鉄三田線もその例にもれず、多くの区間で道路下を走っています。
しかし、神保町駅-大手町駅間においては道路下から大きく外れます。三田線はいったいどこを走っているのでしょうか? 今回はその経路特定の手順に関してです。
2.三田線経路特定のむずかしさ
都内を走る地下鉄には東京メトロと都営地下鉄のふたつがあります。東京メトロに関しては路線ごとの建設史がウェブ公開されて、簡単に閲覧できます。この建設史には路線経路が記されていますので、どこを走っているかは一目瞭然です。
それに対して、都営地下鉄は浅草線と大江戸線しか建設史がありません。またこれらの建設史は市販されておらず、図書館で調べるか古本を入手するしかありません。パソコンでパッと見て確認…というわけにはいかないのです。
さらに、三田線と新宿線に関しては建設史がありません。もちろん資料は東京都交通局に存在しているはずですが、公開されていないのです。それだけに、三田線と新宿線に関しては断片的資料を集めるしかないという状況です。
3.三田線の経路特定手順
今回は神保町駅-大手町駅間に関してですが、現地調査を繰返すと同時に参考資料も探し、総合的に「三田線はここを走っている」と特定しました。その手順と内容を以下記します。
3.1 現地調査
写真1および写真2は、千代田区の神田錦町三丁目を中心とした空中写真です。写真2は、写真1を拡大したものです。
まず初めに、「地図によるとこのあたりを三田線が走っているようだ。しかし記載位置が大きくずれている可能性もある。」と疑いの心を持ちながら、地図記載経路周辺をくまなく歩いて状況を確認しました。その結果、下記(1)~(4)が三田線の施設として特定できました。もちろん、この時点では経路の特定までできていません。写真1および写真2に三田線経路を記入したのは、ずっとあとの話です。
(1)建物①前の通風口
(2)建物④(錦町変電所)
(3)建物⑰脇の換気塔
(4)建物⑲前の通風口
建物⑥⑦脇にも換気塔がありますが、これは三田線の施設ではなさそうです。
3.2 三田線施工記録の参照
次に、三田線(6号線)の施工に関する記録を探しました。繰返し検索してようやく見つたのが下記資料で、これにより三田線の経路に関してかなりの部分を特定することができました。
またこの資料より、写真1および写真2の黄色く塗った区間は外径10.5m複線シールドトンネルであることがわかりました。さらに建物⑯南半分の地下にトンネルがあること、建物⑲前に通風口があることもはっきりしました。
遠藤ほか「都営地下鉄6号線錦町シールド工事における建物防護の設計と施工」土木技術26巻第1号
3.3 大林組八十年史の参照
現地調査で今ひとつ確信できなかったのが、建物③(興和一ツ橋ビル)北半分の地下を三田線が突っ切っているか否かということでした。しかし、ウェブ公開されている大林組八十年史に次のような記述を見つけたことにより、建物③北半分の地下に三田線トンネルがあることが裏付けられました。
『着工当時、このビルの北側地下二七メートルの深さに都営地下鉄六号線工事が計画されていた。もしその完成を待って着工することとなればビル工事の大幅遅延は避けられなかったが、地下鉄工事も受注できたため、両工事を並行して進めることができたのは幸いであった。そのため掘削はオープンカットによって地下鉄底まで行ない、そこに仮の鉄骨柱を建て、上下同時に作業する計画としたが、両者の工程調整には少なからぬ苦心を要した。』(興和一ツ橋ビル〈昭和四十三年六月~同四十五年七月〉より引用)
ちなみに興和一ツ橋ビルは1970年7月竣工、日比谷駅-巣鴨駅間開業は1972年6月30日です。
3.4 半蔵門線建設史(渋谷~水天宮前)の参照
さらに、半蔵門線建設史(渋谷~水天宮前)を参照しました。三田線に関する話をしているのになぜ半蔵門線が関係するのかと思われるかもしれませんが、三田線は半蔵門線と錦町河岸交差点で交差しています(写真1参照)。
半蔵門線建設史記載の神保町二工区平面図を参照することにより、錦町河岸交差点における三田線の位置が特定できたのです。
3.5 千代田線建設史の参照
地図を見ると、大手町駅-日比谷駅間において千代田線と三田線は並行しています。実はトンネルが2本並行しているのではなく、両路線の一体複々線トンネルなのです。もちろん同時に建設され、6号線(現在の三田線)は都営地下鉄の路線ではありましたが、帝都高速度交通営団(現在の東京メトロ)が施工しました。
上記のような内容が千代田線建設史に記載されています。またこの建設史より、日本橋川にかかる神田橋(建物⑲の南東)付近の三田線経路を特定できました。
3.6 YouTube東京都交通局公式チャンネルによる確認
現地調査の一環として神保町駅-大手町駅間を走る電車からトンネル内を撮影しましたが、今ひとつきれいに撮影できません。そこで、下記YouTube東京都交通局公式チャンネルの動画でトンネル内状況を確認しました。
神保町駅発車(8:20)から大手町駅到着(8:57)までトンネル内の構造をずっと見たところ、神保町駅から順に、開削工法(図1の青色区間)、シールド工法(図1の黄色区間)、開削工法(図1の青色区間)となっていることがわかりました。また、曲線区間と直線区間がそれぞれどの程度の長さであるか確認できました。
【地下鉄】都営三田線(西高島平~白金高輪間 各停) 前面展望(4倍速Ver.)(https://www.youtube.com/watch?v=dvX7_Owb8fg&t=10s)
ちなみにこの動画は4倍速なので、0.25倍で再生すると実際の速度になります。
3.7 空中写真による確認と整理
上記3.1~3.6実施後に空中写真で三田線経路を確認検討し、記入しました。その結果として写真1と写真2を再掲載し、写真3を追加します。なお、この区間は1972年6月30日開業なので、写真3はその1年ほど前の状況です。
今まで各種調査確認した内容と矛盾しないように三田線トンネル位置を記入していくのはなかなか大変な作業ですが、調査した結果が整理されます。
ところで、この空中写真による確認整理をしているうちに興味深いものを見つけました。写真1(2017年8月撮影)において建物⑨(グランパセオ竹橋:2018年4月竣工)が基礎工事中であり、その基礎が三田線トンネルを逃げるように斜めになっているのです。写真1および写真2に記入した三田線トンネル位置は建物⑨の基礎斜め部分にぴたりと一致しており、トンネル経路特定の正しさが裏付けられました。
4.まとめ
都営地下鉄三田線に関しては建設史が無いため、断片的資料から総合的に神保町駅-大手町駅間の経路を特定しました。調査を進めるに従い次から次へと不明点が出てきたため、繰返し現地調査を実施しました。
次回からは、地上の状況に関して掲載します。
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以上
ちかてつの
さかてつでした…
【注記】本ブログ中の空中写真は、国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」よりダウンロードした写真データを私が編集・加工したものです。