【地下鉄好きの方へ】三田線は学士会館の下を走っているか

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1.はじめに

 都営地下鉄三田線に関しては建設史がありません。そのため、道路下から大きく外れる神保町駅-大手町駅間の経路特定にはかなり手間を要しました。

 その経路特定の全体過程を【地下鉄好きの方へ】三田線神保町駅-大手町駅間の経路特定手順に記しましたが、今回お話しするのは「三田線学士会館の下を走っているか否か」をどのように確認していったのか…というお話です。

2.現地状況と三田線経路の推定

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写真1 空中写真(2017年8月撮影)

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写真2 空中写真(拡大)

 写真1および写真2は、三田線神保町駅-大手町駅間のうち、道路下から外れて走っている区間を示したものです。青い区間は開削工法、黄色い区間シールド工法で建設されました。

 写真1上端は神保町交差点から200mほど離れた所になります。三田線神保町駅は、神保町交差点から写真1上端までの間に位置しています。

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写真3 建物①

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写真4 建物①前の通風口

 神保町駅A8出口から5~60m南下した所には建物①(共立講堂:写真3)があります。三田線神保町駅は写真3の右方です。建物①の壁面には通風口(黄←印)があります。さらに建物①前の歩道には、赤↓印の位置に通風口があります。

 写真4は建物①前の歩道で撮影したものです。写真3と同様、建物①壁面には通風口(黄←印)があり、歩道にも通風口(赤↓印)があることがわかります。

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写真5 通風口越しの建物②③

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写真6 建物②③

 写真5は、通風口(写真3および写真4の赤↓印)越しに見た建物②(学士会館)と建物③(興和一ツ橋ビル)です。三田線は左手前から奥に向かって、左に曲がりながら走っているはずです。

 写真6は、建物②と建物③の間に三田線が通れるだけの隙間があるか否かを示したものです。建物②③いずれにも干渉せずこのすきまを斜めに通り抜けるのは無理ですね。

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 さて、それでは三田線はこのあたりをどのように走っているのでしょうか。写真3~6に示した現地状況より、いくつかの経路が推定できます。

【推定経路1】神保町駅から道路中央地下を南下し、左に(東に)曲がりながら建物②③両方の下を突き抜ける。

【推定経路2】神保町駅から南下しながら道路西側の建物①の下を通り、その後左に(東に)曲がって建物③の下を突き抜ける。

【推定経路3】神保町駅から南下しながら道路西側に寄り、建物①の前をかすめて、建物③の下を突き抜ける。

3.大林組八十年史よりわかること

 興和一ツ橋ビルに関していろいろ検索したところ、ウェブ公開されている大林組八十年史に重要な鍵となる記述が見つかりました。

 (ア)興和一ツ橋ビル北半分の地下には都営地下鉄6号線(三田線)がある。
 (イ)興和一ツ橋ビルと都営地下鉄6号線、いずれも大林組が施工した。
 (ウ)地下鉄の底まで開削し、上下同時に両工事を並行して進めた。

 ちなみに、興和一ツ橋ビルは1970年7月竣工、日比谷駅-巣鴨駅間開業は1972年6月30日です。

4.三田線推定経路の検証

 ここで【推定経路1】~【推定経路3】のうちどれが正しいのか、検証します。

4.1 【推定経路1】に関して

 三田線神保町駅から道路中央地下を南下して東に曲がろうとすると、建物③(興和一ツ橋ビル)だけでなく建物②(学士会館)の地下にも食い込んでしまいます。建物②の下を通すためには大掛かりな基礎下受工事が必要になりますが、ふたつの建物の下を通すという面倒なことをするだろうかという疑問があります。

⇒ 建物②の下も通っているという仮説には無理がある

4.2 【推定経路2】に関して

 建物①(共立講堂)壁面には通風口(黄←印)がありますが、もしかすると三田線のものかもしれません。つまり、神保町駅から南下してきた三田線はいったん西に進路を振って建物①の下に食い込んでから、S字曲線を描きながら東に曲がって建物③(興和一ツ橋ビル)の下にもぐり込んでいるのかもしれません。この経路なら建物②(学士会館)の下を通らなくて済みます。

 しかし、この経路も無理があるように感じます。建物②の下を通らなくて済む代わりに、今度は建物①の基礎下受工事が必要になります。そもそも建物①壁面の通風口(写真3および写真4の黄←印)は三田線のものなのでしょうか? 現地で建物①壁面通風口の前に立って音を聞いていましたが、電車の通過音は聞こえてきませんでした。その一方で、歩道の通風口(写真3および写真4の赤↓印)からは、三田線の曲線通過音が頻繁に聞こえてきます。

⇒ 三田線は建物①の下を通っていない

4.3 【推定経路3】に関して

 三田線神保町駅から南下しながらじわり道路西側に寄り、建物①前の歩道にある通風口(写真3および写真4の赤↓印)の下を通って建物③の地下のみを通過する…という経路なら十分あり得ると考えます。

 …となると、「神保町駅から南下しながら道路西側に寄っている」という証拠がほしくなります。

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写真7 消火設備配置図

 もともと建設史が存在しない三田線ですから、駅の平面図など無さそうです。ところが、神保町交差点脇にある神保町駅A7出口には消火設備配置図(写真7)があるのです。三田線が地図通り南北になるよう左に90度回してありますが、神保町駅の南側で三田線トンネルは西に寄っていることがわかります。

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写真8 南行列車最後尾からの神保町駅

 さらに、三田線神保町駅-大手町間を走る地下鉄電車に乗り、実際にトンネルがどうなっているか確認しました。

 写真8は、三田線南行列車最後尾からのトンネル内風景です。消火設備配置図(写真7)記載の通り、三田線トンネルは道路の西側に大きく寄っていることがわかります。

⇒ 三田線神保町駅南方で道路西側に寄ったのち、建物①前から東に曲がって建物③の下を突っ切っている。

 写真1の三田線経路にはこの様子を反映してあります。

5.まとめ

 三田線神保町駅南方で道路西側に寄ったのち、建物①(共立講堂)前から東に曲がって建物③(興和一ツ橋ビル)の下を突っ切っています。建物②(学士会館)の下は通っていないと考えられます。

f:id:me38a:20191022195213j:plain以上
ちかてつ
さかてつでした…

【注記】本ブログ中の空中写真は、国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」よりダウンロードした写真データを私が編集・加工したものです。