【都市伝説好きの方へ】地下鉄の踏切と謎の空洞

f:id:me38a:20200502160212j:plain

1.はじめに

 「地下鉄の踏切」としては東京メトロ銀座線の上野検車区が有名です。実は、都内の他の場所にも地下鉄の踏切がありました。それはどこなのでしょうか?

 さらに、上記に関連して「謎の空洞」を持つ駅が存在するという噂がありますが、それは何駅なのでしょう?

2.西馬込駅の空洞と北方の踏切跡

 クルマは日常の点検が必要ですし、車検が法律で定められています。日常点検は車庫で実施し、車検は整備工場で実施するというのが一般的だと思います。

 鉄道車両も同様で、日常の点検は車庫で実施しますが、重要部検査、全般検査などは工場で実施します。都営地下鉄浅草線の場合は当初、西馬込駅の南方に馬込車庫があり、北方には馬込車両工場がありました。西馬込駅第二京浜の地下にありますが、ここからトンネルで車庫と工場につながっていたのです。

 2004年、馬込車両工場は現在の馬込車庫(馬込車両検修場)に統合されました。そのため、西馬込駅から工場に至る引込み線は廃止され、その坑口から工場まで3か所あった踏切も消えました。

 それでは西馬込駅から坑口に至るトンネルはどうなったかというと、どうやら途中まではそのまま地下に存在しているようなのです…

3.引込み線の経路と状況

f:id:me38a:20200502160252j:plain

写真1 空中写真(1984年)

f:id:me38a:20200502160308j:plain

写真2 空中写真(2007年)

f:id:me38a:20200502160323j:plain

写真3 空中写真(2017年)

 昔、坑口から馬込車両工場までどのような状況だったか、Googleで「馬込車両工場 引込み線」と検索してみると他の方がお書きになったブログがいろいろ出てきます。本記事の写真と比較するとその変化がわかります。

 写真1は、馬込車両工場がまだ機能していた頃です。坑口から出た引込み線は単線だったことがわかります。引込み線には踏切①~③があり、踏切②より北側(工場寄り)には引上げ線が並行しています。坑口の南方はトンネルの上が細長い空地になっており、緩やかに第二京浜に合流していることがわかります。

 写真2は、馬込車両工場統合すなわち引込み線が廃止されてから3年経過した状態です。坑口南側にあった民家は消えて更地になっていますが、駐車場との境目が相変わらずトンネルの位置を示しています。坑口跡の北から踏切②までは線路が撤去されているようです。馬込車両工場があった場所も建物は撤去され、基礎だけが残っています。

写真3は最近の状況です。馬込車両工場の跡地には立正大付属の立正高・中が建っています。引込み線跡に線路はもう見当たりません。坑口跡の北側はまだ空地のままですが、坑口南側には大きな集合住宅が建っています。そしてこの集合住宅の一角に換気塔が出現しています。換気塔がある場所は、まさに引込み線トンネルの真上です。

 実は現地でこの換気塔を見た時、違和感がありました。引込み線トンネルができて半世紀以上経っているのに、換気塔が妙にきれいだったのです。その後、本記事を書くに際し過去の空中写真と比較していて、少なくとも2007年(写真2撮影時点)よりあとに設置されたものであることがわかりました。

 この換気塔設置に関しては次のように推定できます。
 (1)建設当初、坑口は換気口としての機能も有していた。
 (2)集合住宅建設に際し、用地内のトンネルを解体撤去することにした。
 (3)トンネルが有していた換気機能は維持したいので、換気塔を設置した。

 つまりこの換気塔から南方は、引込み線トンネルが「換気用風道」として継続使用されているのではないかと推定します。

4.現地の状況

 まず、下記YouTube東京都交通局公式チャンネル浅草線前面展望動画の「9:01~9:05あたり」をご覧いただきたいと思います。これは、西馬込駅1番線を出発して駅南方の馬込車両基地(馬込車両検修場)に向かう際の風景ですが、画面右上に後方つまり旧馬込工場寄りの画像が表示されています。よく見ると、2番線の左に線路が無いトンネルが見えます。これこそ旧馬込工場に向かうトンネルで、建設史の西馬込駅平面図にも記されています。

【地下鉄】都営浅草線 前面展望(浅草橋~馬込車両検修場・報道関係者向け試乗会)4倍速Ver. (https://www.youtube.com/watch?v=6ANbDZY-3mI)

f:id:me38a:20200502160353j:plain

写真4 西馬込駅2番線ホーム

 写真4は、西馬込駅2番線ホーム南端で南側(馬込車両基地寄り)を見たところです。動画で確認できる引込み線トンネルは、この写真の奥から右手前に向かって伸びています。壁があるためにその存在を目視できませんが、トンネルが換気用風道として存在していると推定します。

f:id:me38a:20200502160409j:plain

写真5 換気塔周辺

 写真5は、第二京浜の東側歩道から換気塔付近を見たところです。この換気塔の真下には引込み線トンネル跡(現在はおそらく風道)があります。トンネルは第二京浜から左曲線で反れていきます。ただし、写真右に見える集合住宅の真下においてトンネルは解体撤去されていると推定します。

f:id:me38a:20200502160425j:plain

写真6 換気塔

 換気塔を近くで見ると、写真6のようにピカピカです。換気塔の向こうに見える集合住宅は2011年竣工なのでこの換気塔も10年程度使用されているはずですが、この下を鉄道車両が通過しないため鉄粉による茶色の汚れは見られません。

f:id:me38a:20200502160440j:plain

写真7 坑口跡付近

 写真7を見ると、第二京浜から坑口跡付近に向かって地面が高くなっていることがわかります。集合住宅は地上8階、地下2階ですが、トンネルを撤去しないと基礎が干渉していたと思います。まさか廃トンネルのためにアンダーピニング(基礎下受け)などするわけも無いでしょうし…。

f:id:me38a:20200502160456j:plain

写真8 坑口跡に建つ建物

 写真8中央の灰色の建物は、坑口跡に建っています。2017年時点(写真3)では細長い空地でしたが、現在はご覧のようになっています。この建物は見かけ上3階床ですが、坑口跡をふさぐような形でさらに1階床分がこの下にあるはずです。

f:id:me38a:20200502160513j:plain

写真9 踏切①跡

 他の方がお書きになったブログ(引込み線跡にまだ踏切が残っていた頃)と対比すると、青灰色の建物(写真9)が引込み線跡であることがわかります。その左奥に見えるモルタル壁の建物は当時から変わっていません。ちなみにこのあたり、第二京浜との高低差はありません。

f:id:me38a:20200502160529j:plain

写真10 踏切②跡からの風景

 写真10は、踏切②跡から南側(踏切①跡)を見た風景です。引込み線跡は駐車場になっています。

 写真中央には踏切①跡に建つ青灰色の建物が見えます。その背後に坑口跡の建物(写真8)が見えます。坑口跡付近と踏切①跡では第二京浜からの地面の高さが異なっており、これらの建物には約1階床分の段差があることがわかります。土地の高低差をうまく利用して坑口を設けてあったんですね。

f:id:me38a:20200502160554j:plain

写真11 踏切②跡からの風景

f:id:me38a:20200502160611j:plain

写真12 踏切③跡付近からの風景

 写真11は、踏切②跡で北側(工場跡寄り)を見たところです。引込み線跡はやはり駐車場になっています。

 写真12は同じ駐車場を踏切③跡から見た風景です。踏切②より北側(工場跡寄り)には、引込み線に並行して引上げ線がありました。

f:id:me38a:20200502160626j:plain

写真13 踏切③跡

 写真13は踏切③跡で、左奥が馬込車両工場跡です。私が立っている二本木坂は八幡神社の方から登ってくる坂道で、昔からある古い道だそうです。このような歴史ある道に「地下鉄の踏切」があったというのも面白いものです。

f:id:me38a:20200502160646j:plain

写真14 踏切③跡

f:id:me38a:20200502160712j:plain

写真15 境界標

 写真14は、踏切③跡から馬込車両工場跡を見たところです。工場跡は現在、立正大付属の立正高・中になっています。

 写真14の赤↓印の路面には東京都交通局の境界標(写真15)がありました。歴史的経緯を知らないと、なぜ「交通局」なのか不思議に思うことでしょう。

5.まとめ

 都営地下鉄浅草線西馬込駅北方には馬込車両工場があり、西馬込駅から引込み線が伸びていました。西馬込駅は地下なので途中までトンネルですが、地面が少し低くなるところで地上に顔を出し、そこから工場までは地上を走っていました。地上区間には「地下鉄の踏切」が3か所存在しました。2004年にこの工場は廃止され、引込み線地上区間の跡は駐車場などになりました。

 一方、引込み線のトンネル区間ですが、坑口跡の南側に集合住宅が建設されるに際して解体撤去されたと推定されます。ただしこの集合住宅の南には新たに換気塔が設けられており、ここからトンネルは「換気用風道」として使われているものと推定します。

【関連記事】
 銀座線はどこを走っているか(その3) 上野車庫線

f:id:me38a:20191022195213j:plain以上
ちかてつ
さかてつでした…

【注記】本ブログ中の空中写真は、国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」よりダウンロードした写真データを私が編集・加工したものです。