頭でわかっているつもりでも体は動かない…だから訓練が大切…というお話

プロが操縦する飛行機

 日頃は自社内で仕事をしている人であっても、お客様の現地へ出張して作業をすることがあると思います。通常と異なる仕事をすることになるわけですが、その手順を書面で確認しただけで問題なく作業できる…でしょうか?

◇   ◇   ◇
 

危なっかしいさかてつ機長

 ある日、私は羽田空港B737旅客機を離着陸させていました。滑走路34Rの右回りtraffic patternです。以下は、進入着陸時の操縦室におけるインストラクターと私の会話です。
  …
イ「base legに…right turn」
私「はい」
  …
イ「今度はfinalに入ります。heading 337」
私「right turn, heading 337」
イ「flap 15…gear down… flap 30」
  …
イ「140ノット維持してください」
私「はい」
イ「あ~、PAPIよく見てくださ~い」
私(お! 赤3つ…あ、4つ!)
  反射的に操縦桿を引くが…
私「あれ? 上がらない…」
イ「パワー入れないと上がりませんよ…」
私(おっと、そうだった…throttleを前に出さないと…)
  エンジン音が高くなる…
私(何とかGSに戻った…)
  人工音声 "approaching minimum"
私「はい」
  人工音声 "minimum"
私「landing」
私(今度はPAPIが白だらけになったけどまあいいや…時間もないし)
  人工音声 "…50… 40…30…"
私(throttle lever idle…やれやれtouch down…次はreverse lever…)
イ「(reverse leverは)ゆっくりゆっくり…」
  auto brakeとreverseとspoilerで飛行機は減速…
イ「あ、中心からずれ始めた…右に寄せて…」
私(右のrudder pedalを踏むんだっけ…)
イ「ありゃ、auto brake外れちゃった」
私「あ、こっちで踏み込んでbrakeかけます…」
  機は何とか滑走路上で停止…
私「ふぅ…」

◇   ◇   ◇
 

 以上はもちろん実機ではなく羽田空港内のシミュレータですが、自分自身のとんでもない操縦に冷や汗が出ました。上記操作に関して簡単に記すと、

 (1)降下中に高度が下がり過ぎ、操縦桿を引いたが上昇しなかった
 (2)滑走路で方向微調整しようとしたら自動ブレーキを解除してしまった

という誤りをしているのです。特に(1)は墜落につながる致命的な誤りです。

 高度が低下した場合、まずエンジン出力を上昇させ、続いて操縦桿を引いてやる必要があります。操縦桿の操作は「推力を鉛直方向と水平方向に振り分ける」ことに過ぎません。一応理屈ではわかっているつもりでしたが、PAPI(Precision Approach Path Indicator:4つの赤/白灯火で適正進入角か否か示す)の表示を見て反射的に操縦桿を引く操作しかしていなかったのです。

 着陸後のブレーキ操作に関しても「rudder pedalの奥を踏み込むとブレーキがかかると同時に自動ブレーキは解除される」と理屈ではわかっていました。しかし、飛行機の進行方向維持に気を取られて操作を誤ってしまったのです。

 いずれも「頭ではわかっているつもりだが体が動かない」という状態でした。そうでなくてもGSはGlide SlopeではなくGreat SwellとかGreat Slalomの略じゃないかという感じでしたから、論外です。

◇   ◇   ◇
 

 今回は初めての飛行機操縦を例にあげましたが、いくら書物などで断片的な知識を頭に入れても体は動きません。冒頭に記した仕事に関しても同じことが言えます。現地出張者に作業手順書を渡して「よく読んでこの通りに作業してくれ」では全くダメです。可能な限り現地と同じ環境条件を作り、実際に操作させることが大切です。この操作訓練により作業手順書の誤りや改善点を抽出できるという点も忘れてはいけません。

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さかてつでした…