自分の頭の中身は相手に簡単には伝わらないと認識しよう

以心伝心なんてないのニャ…

 自分自身の頭の中身(理解していること)は相手も同様にわかってくれる(理解できる)…と思い込んでしまうことがあります。しかし、現実には想像以上にわかってもらえないもので、これに起因して「人と人の境目」でいろいろ問題が起こります。

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 昔々…ちょっとした試験を実施するため、ステッピングモータを駆動させる必要が生じました。そこで、私は部品を集めて駆動回路基板を作りました。「タイマICで矩形波発生→カウンタIC→デコーダIC→トランジスタアレイで駆動」という基本構成の簡単な回路です。試験の内容より下記のように操作するものを設けました。

 (1)電源スイッチ
 (2)矩形波周波数設定用の可変抵抗器(ボリューム)
 (3)出力パルス数設定(カウント&停止)用のDIPスイッチ
 (4)回転方向(カウント方向)設定用のスイッチ

 試しに動かしたらステッピングモータは思った通り回転し、所定の試験ができるようになりました。私は他の仕事があって忙しかったし、駆動回路基板は簡単なものだと思っていたので、この試験に関しては後輩に口頭で説明して任せました。

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 数時間経ち、「さて、そろそろ試験が終わった頃かな…」と思って戻ってくると…なんと、試験が終わるどころか、上記(1)~(4)の操作手順がわからずに後輩が悪戦苦闘していました。私の口頭説明では全く不足だったのです。結局、私は次のような操作説明書2種類を作成して後輩に渡し、さらにその内容を説明することになったのでした。

 【A】上記(1)~(4)のそれぞれの機能(操作すると何がどうなるか)
 【B】ある試験内容に対し(1)~(4)をどのような手順で設定・操作すればよいか

 今思えば後輩に「任せた」のではなく「押付けた」が正しい表現だったわけですが、それでもその時、次のようなことに気付きました。

1.自分の頭の中身は相手にそう簡単には伝わらない
 まず当たり前ですが、「以心伝心」などというものはありません。強く念じていても、駆動回路基板の使い方が相手に伝わるわけがありません。それでは言葉にしてしゃべったら伝わるかというと…多くの場合、上記事例のようになってしまうものです。「自分自身が簡単だと思っていることは相手にとっても簡単ですぐに理解してくれるだろう…」と思い込みがちですが、そうではないのです。口頭での説明では不足です。最低限、書面(説明書、図面など)を作成して説明することが必要です。

2.相手が聞いてきた内容に対する説明だけでは不足
 使い方がわからない場合は一般的に「これは何? 操作したらどうなるの?」という質問をするものです。技術屋さんは杓子定規に一問一答で対応する傾向があり、結果として上記事例【A】だけの内容になりがちです。しかし、これだけではやっぱり相手は理解し切れません。なぜなら「試験内容に対して(1)~(4)をどのような手順で設定・操作すればよいか」という「本当に知りたいこと」が説明されていないからです。

3.本当に相手が必要としている切り口の説明が必要
 したがって相手に理解してもらうためには、「本当に知りたいこと」すなわち上記事例では【B】「やりたいことに対してどこをどう操作すればよいか」が必要なのです。このような意識で改めて家電製品などの取扱説明書を見ると、まさに【B】の書き方になっていることに気付きました。

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 自分の頭の中身は相手にそう簡単には伝わりません。最低限書面(紙か電子データか問わず)が必要であり、さらにその内容も本当に相手が必要としている切り口で記されていないと不足です。

 なお誤解いただきたくないのですが、「簡単に相手に伝わらない」のは決して「相手の能力がこちらより低い」という意味ではありません。「人と人の境目では物事が伝わりにくい」という意味です。また、「相手」は「他人」とは限りません。「過去の自分自身」「未来の自分自身」も「相手」という概念に含まれます。過去に自分自身が作成した書面を見てもさっぱり理解できない…ということは多々ありますよね。

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さかてつでした…