眠りの大切さを認識しよう

 ものづくりの仕事をしていると、いろいろな問題が発生するものです。それを根性で解決せざるを得ないこともあろうかとは思いますが、それが本当に適切なやり方なのでしょうか?

◇   ◇   ◇
 

 昔々の話です。

 私が設計を担当して納入した装置が、ある日お客様のところで動作不良を起こしました。破損はしていないため、当該装置の部品寸法に関して何かまずい点があるのではないかという話になってきました。この装置はお客様においてたいへん重要な位置付けのものであり、原因と対策を大至急報告するよう強く求められました。

 私は関連図面をすべて引っぱり出し、部品寸法とその公差を確認していきました。しかし、公差内で製作されている限り動作不良が起こる可能性はないと判断されました。もちろん出荷前の検査も合格しています。そこで、原因の可能性として「お客様における使い方が適切ではなかった」「お客様において装置の一部を変形させてしまった」と記した報告書を、上司確認後にお客様に送付しました。深夜、日付は変わっていました。

◇   ◇   ◇
 

 疲れて帰宅し、ぐっすり眠りました。

 翌朝…目が覚めた瞬間、斜めに傾いた部品の三次元図象が頭の中に出現しました。「あっ! もしかして…部品が斜めに、つまりねじれの位置関係になっていたら動作不良が発生するのではなかろうか?」

 今回動作不良を起こした部位は筒状の構造で、その内部に棒状の別部品が挿入されるようになっています。昨夜は図面を見ながら二次元的に、すなわち両者の中心軸が並行のまま相対位置が変化した状態ばかり考えていました。三次元的に両者の中心軸がねじれの位置関係にある場合は全く頭になかったのです。

 出社して上司に今朝気付いた内容を話したら、「昨日あれだけ調べてわからなかったのに、今朝になったらわかったと言うのか? お前、まじめに考えていたのか? 報告書はもうお客様に出してしまったんだぞ!」と言われました。上司が文句言いたくなる気持ちもわかりますが、気付いた以上は放置できません。さっそく、ねじれの位置関係にある場合を確認し始めました。その結果、部品寸法が公差内であっても動作不良を起こす可能性がすぐに判明したのです。気付いてみれば当たり前の話なのですが、昨夜はどんなに考えてもわかりませんでした。

 昨夜提出したばかりの報告書を全面的に訂正し、お詫びの言葉とともに再提出したところ、お客様から「昨夜の報告書は全く納得できず不満を感じていたが、この再提出版なら十分理解できる」という返事をいただきました。

 その後、ねじれの位置関係にあっても動作不良が生じない寸法に変更した別部品を製作・再納入し、この件は解決しました。

 眠りと目覚めの「境目」で、解決の糸口が見つかったという事例です。

◇   ◇   ◇
 

 発生した問題を解決しようとがんばることは重要です。しかし、疲れた頭に鞭打つだけでは解決案が出てこないものです。その時はいったん眠ることが大切だと思います。眠りはただ単に頭と体を休めているだけと思いがちですが、記憶(および考えたこと)の整理・定着という機能もあるそうです。

f:id:me38a:20191022200051j:plain以上
さかてつでした…