同和鉱業キハ2100諸元表記載の変速機形式TC2は正しいか?

1.はじめに

 鉄道車両の構造・性能などに関して調査する場合、重要な資料となるのが諸元表です。人体に例えれば体の各部の寸法や身体機能を記したようなものです。しかし諸元表は人間が記したものゆえ、誤りが入り込んでいる可能性は否定し切れません。だからと言ってその誤りがあるかを確認しないまま鵜呑みにするのは、技術者としてよろしくないのではないかと私は思います。

 今回は、同和鉱業キハ2100の変速機に関して、諸元表記載内容が正しいかどうか確認したお話です。結論を先に申しておくと「諸元表は正しかった」となります。

2.立形機関と横形機関

 1960年頃は、国鉄ディーゼル動車の機関が立形(シリンダが鉛直方向)から横形(シリンダがほぼ水平方向)に移行しつつある時期でした。横形機関の直接的なきっかけは、初の本格的特急ディーゼル動車81系の登場です。

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写真1 立形機関(機関形式:DMH17C)

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写真2 横形機関(機関形式:DMH17H)

 それまでのディーゼル動車に使われていた立形機関は写真1のように背が高く、機関上部は床板のすぐ下にありました。そのため、車両の床には点検用の蓋を設けていました。しかし、特急用の車両でこんな状態では車内に騒音が入り込むので話になりません。そこでシリンダをほぼ水平に設計変更して車外から点検できるようにし、床の点検蓋を廃止しました。これが横形機関です。機関の形式はDMH17Hと称し、81系登場から10年ほど後まで製造が続けられました。もちろん特急用に限らず、急行用、近郊用、通勤用などのディーゼル動車に広く使用されました。

 国鉄がこの機関を標準品としてじゃんじゃん使えば、私鉄でも右へならえするのは自然なことで、1962年登場の同和鉱業キハ2100もDMH17Hを採用しました。 

3.液体変速機

 機関には変速機が取付けられます。立形機関DMH17C用の液体変速機はTC2とDF115で、クラッチ構造などは異なりますが、性能的にはほぼ同じでした。国鉄では機関を横形に設計変更すると共に変速機も設計変更し、81系から採用しました。TC2に関しては下記(1)~(4)を変更した上で形式をTC2Aとしました。

 (1)TC2では変速機油として燃料(軽油)を用いているが、専用の油を使用するよう変更した。変速機各部からの漏れ油はTC2においては油溜タンク、TC2Aにおいては補助油タンクに回収される。

 (2)長大編成時に逆転機前後進切換えを容易かつ確実に行うため、補助かみ合わせ装置を追加した。(なお、のちにTC2に関しても電気式の補助かみ合わせ装置を追加している。)

 (3)DF115と外部配管を完全に互換性を持たせるため、油こしを変速機側に移した。

 (4)クラッチ切換えシリンダの寸法関係を見直し、無調整化を図った。

4.同和鉱業キハ2100の変速機はTC2か?

 前置きが長くなりました。ここからが本題です。キハ2100の諸元表には「機関DMH17H、変速機TC2」と記されています。これを見てあれっと思いませんか? 上記説明で「国鉄では機関を横形DMH17Hにすると共に変速機もTC2Aに変更した」と記してありますね。

 私は最初、諸元表に誤りがあるのだろうと思いました。そこで、写真を拡大して確認することにしました。

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写真3 キハ2100の変速機(TC2)

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写真4 元国鉄キハ30の変速機(TC2A)

 写真3はキハ2100の変速機で、写真2の変速機部分を拡大したものです。写真4は、元国鉄キハ30の変速機です。変速機本体は茶筒の蓋を横に倒したような形で、その中心から出力軸が出ているという点はいずれも同じですが、変速機下部のタンク形状と大きさがかなり異なることがわかります。TC2Aは上記(1)に記した通り、変速機専用の油を自分で蓄えておく必要がありますので、TC2よりも大きいのです。

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写真5 関東鉄道キハ531の変速機(TC2)

 写真5は関東鉄道キハ531の変速機です。写真3および写真4と出力軸の方向が左右逆ですが、変速機TC2本体の形状はよくわかります。TC2は変速機油として燃料を使用するため、自前のタンクは小さくなっています。吊り枠に下半分が隠されていますが、小さな油溜タンクが取付けられていることがわかります。

 さて、写真3を写真4および写真5と比較すると、どちらと同じでしょうか? 小さな油溜タンクが取付けられている方、つまりTC2ですね。どう見てもTC2Aではありません。諸元表は正しかったのです。

5.なぜ国鉄標準と異なるのか

 国鉄においてDMH17Hと組合せる変速機はTC2Aなのに、なぜ同和鉱業キハ2100はTC2なのかという話ですが、上記(1)~(4)をよく見ると答がわかります。性能の向上、長大編成への対処、互換性の確保、無調整化による経費削減…確かに国鉄には重要な項目ですが、地方私鉄においてはそんなに重要ではないのです。わざわざ専用の油を使用してめいっぱい性能を絞り出すこともない、編成は短い、互換性や調整が問題になるほどの車両数は保有していない…。このようなことであれば、むしろ従来と同じものを使い続ける方が保守部品の統一もできてありがたいという話になります。

 やはり、国鉄と地方私鉄では事情が異なるのです。

6.まとめ

 同和鉱業キハ2100の変速機はTC2です。TC2Aではありません。たった一文字の「A」があるかないかではありますが、諸元表記載内容が正しいか否かを確認した…というお話でした。

f:id:me38a:20191022195213j:plain以上
ちかてつ
さかてつでした…