【地下好きの方へ】菊坂下換気室の謎

1.はじめに

 東京メトロ南北線がどこを走っているか、そしてどのような施設があるかを少しずつ現地確認しています。このような確認をするに際していちばん頼りになる資料が南北線建設史です。しかし、建設史を参照して現地を調査してもなお、「わからない」ということがあります。

 今回は「菊坂下換気室の謎」です。

2.菊坂下換気室とはどのようなものか

 地下鉄は多くの人々が利用するので、そのトンネル内は換気する必要があります。浅いところを走っている場合はトンネルの脇から地上に向かって100m前後の間隔で換気口を設けます。しかし、南北線は比較的深い(このあたりで地下30m程度の)ところを走っているため、駅間に「換気室」と称する大掛かりな地下空洞を構築し、トンネルと地上を風道で結んでいます。

 菊坂下交差点の近くには、菊坂下換気室があります。南北線建設史には、文章および図で菊坂下換気室に関して下記(1)~(6)の内容が記載されています。

 (1)菊坂下換気室は菊坂下交差点の曲線外周側にある。
 (2)構造は上部から、排気道部、機械室部、トンネル連絡風道部(立坑部)である。
 (3)排気道部は隣接の新築ビルに合築された。
 (4)換気室の寸法は、縦断方向13m、横断方向18mである。
 (5)地表から、土被り5.5m、換気室部(3層構造)15.6m、立坑部11.13mである。
 (6)立坑部は2本の横坑部で南北線トンネルに接続されている。

 上記の換気室部を機械室として利用していると考えれば、菊坂下換気室は地表より下記(a)~(c)のごとく構成されていることになります。

 (a)新築ビルに合築された排気道部
 (b)平面形が「トンネル方向13m、横断方向18m」の換気室(機械室)
 (c)トンネルに接続された横坑と立坑

 (b)(c)が見えないのは当然ですが、(a)の排気道部は換気口もしくは換気塔という形で地上に姿を見せているはずです。菊坂下換気室の真上に相当する場所には、デザイナーズマンション(賃貸集合住宅)が建っています。しかし、不動産サイトでこの建物の間取りを確認しても、換気塔部分と思われるデッドスペースはありません。また現地で建物を確認しても、換気口や換気塔は見つけられませんでした。

 菊坂下換気室の排気道部は埋められてしまったのか、それとも人知れず地表に開口して換気し続けているのか…謎なのです。

3.地上風景

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写真1 空中写真(2017年8月)

 こんにゃくえんま近くを半径165m右曲線で通過して西片交差点を越えた南北線は、ごく短い直線区間をはさんだのちに半径205m左曲線で菊坂下交差点を左に曲がります(写真1)。今回取り上げた菊坂下換気室はこの交差点の地下にあります。写真1中の黄色い□印がこの換気室の位置と平面形を示しています。

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写真2 菊坂下交差点

 写真2は、菊坂下交差点を西側から見た風景です。南北線は私の足元から半径205m左曲線で交差点を通過していきます。道路は直線的な曲がり方をしているため、南北線トンネルは写真左側に見える建物の下に部分的にもぐり込んでいることになります。

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写真3 菊坂下交差点

 写真3は、南方(菊坂のふもと)から菊坂下交差点を見たところです。南北線トンネルは、正面に見える建物の下に食い込みながら左(西)から右奥(北東)へ曲がっています。これら建物は最高でも5階床ですから、南北線トンネルの上に直接乗っていてもトンネルに過大な荷重はかけていないものと思われます。

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写真4 建物④

 写真4は菊坂交差点南側に建っている建物④で、これこそ菊坂下換気室の上に位置する建物です。賃貸集合住宅ですが、1階にはレストランが入っています。竣工は2008年で、南北線が開業した1996年時点には存在していませんでした。

 

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写真5 建物④南側

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写真6 建物④(換気室真上)

 写真5は建物④を南側から見た状態です。Googleマップで事前に建物④を空中から確認したところ中央付近に四角い部位があったため、「これが換気塔部分か!」と喜んだのですが、現地で確認したらご覧の通り階段でした。

 写真6は建物④を北側から見た状態で、ここが菊坂下換気室の真上になります。しかし、手前部分にゴミ集積場、左側に自転車置き場があるだけで、換気室の換気塔部分と思われる構造物は見当たりません。

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写真7 現在建物④が建っている場所

 ところで写真4の説明にちょっと記しましたが、この建物④は南北線開業時には存在していませんでした。したがって、南北線建設史の「菊坂下換気室の排気道部は『隣接の新築ビル』に合築」という記述中の『隣接の新築ビル』そのものではないということになります。では、現在建物④が建っている場所は過去どのような状況だったのでしょうか?

 そこで、国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」を用いて南北線着工から建物④竣工までの間の空中写真を検索してみました。その結果、写真7に示した2枚の空中写真が見つかりました。赤〇印は、現在建物④が建っている場所です。1989年10月時点では赤い屋根の建物が見えます。2006年11月時点では空地あるいはごく低い構造物のようです。これらの状況を時系列で整理すると次のようになります。

 1989年 4月 南北線着工(四ツ谷駅-駒込駅間)
 1989年10月 赤い屋根の建物あり
 1996年 3月 南北線開業(四ツ谷駅-駒込駅間)
 2006年11月 空地あるいは低い構造物あり
 2008年 6月 建物④竣工

 上記より、南北線建設中における『隣接の新築ビル』は「空地あるいは低い構造物」である可能性が高そうですが、そもそも「空地あるいは低い構造物」が何物なのかわかりません。2008年には建物④に建替えられていますが、その際に菊坂下換気室の排気道部は埋められてしまったのか、それとも人知れず地表に開口して換気し続けているのか…やはりよくわかりません。謎です。

4.まとめ

 菊坂下交差点には菊坂下換気室があります。換気室上部には「隣接の新築ビルに合築された排気道部」があるはずですが、その場所に現在建っている賃貸集合住宅に換気口もしくは換気塔のようなものはありません。謎です。

【注記】本ブログ中の空中写真は、国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」よりダウンロードした写真データを私が編集・加工したものです。

f:id:me38a:20191022195213j:plain以上
ちかてつ
さかてつでした…