自動張力調整装置 滑車周囲のギザギザ

1.はじめに

 日頃何気なく目にしているものであっても、改めてよく見てみると「なぜこういう形になっているんだろう?」と疑問に思うことがあります。今回は線路脇でよく見かける「滑車」の周囲のギザギザに関してです。

2.架空電車線(架線)

 電車が走るには電気が必要です。地上に設けた変電所から電車に電気を供給するために線路と並行して設置した設備を電車線と称します。電車は電車線から集電装置を用いて電気を車内に取り入れます。多くの場合空中に電車線を設け、架空電車線と名づけられていますが、これを略した架線という言葉の方が一般的だと思います。
 架線は、吊架(ちょうか)線(鋼をよった線)を支持点間に渡し、吊架線からハンガでトロリ線(銅線)をぶら下げています。電車の集電装置はこのトロリ線を摺動しながら集電するわけです。

3.自動張力調整装置(テンションバランサ)

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写真1 装置上半分

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写真2 装置下半分

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写真3 滑車とストッパ

 さて、架線はぴんと張っていないとたるんでしまい、具合がよくありません。そのため、吊架線とトロリ線に一定の張力を与える装置が必要となります。これが自動張力調整装置(テンションバランサ)です。自動張力調整装置にもいろいろ種類がありますが、従来多く使用されてきたのが滑車式です。吊架線とトロリ線をワイヤロープで引っ張り、小滑車に巻き付けます(写真1)。小滑車と同軸に大滑車が固定されており、大滑車に巻き付けたワイヤロープの先には錘(おもり)がぶら下がっています(写真2)。錘に作用する重力で、吊架線とトロリ線に一定の張力を与えているわけです。

4.大滑車周囲のギザギザ

 ところで某所でこの滑車式自動張力調整装置を見ていたら、大滑車周囲にギザギザがあることに気づきました(写真3)。なかなかデザイン的に面白いと思います。しかし、技術者は機能・性能をつくる人たちですから、わざわざこういう形にするからにはそれ相応の機能があるはずです。
 しばらく考えて、ギザギザの機能がわかりました。ワイヤロープの張力がない時に、錘の位置が下がる(落下する)のを食い止めるのです。
 支点Aを中心として、滑車を支えている腕は上下することができます。ワイヤロープの張力があれば滑車は水平方向に引っ張られて持ち上がり、写真3のような状態になります。しかしワイヤロープの張力が低下すると滑車は腕と共に垂れ下がります。すると、リンクに押されたストッパが支点Bを中心として半時計方向に回転し、大滑車周囲のギザギザとかみ合います。そのため、錘が落下しなくなるというわけです。
 ワイヤロープの張力が無くなる時というと、架線断線などが考えられます。

5.それだけなんだろうか?

 ところで、ワイヤロープの張力がない場合でも錘が落ちないということは、トロリ線を張る時にもその機能を発揮するのではないでしょうか?
 (1)錘を所定の位置より少し高く持ち上げ、大滑車周囲のギザギザにストッパをかける。
 (2)ワイヤロープを小滑車に巻きつけ、端部を大滑車内側C部に引っ掛ける。
 (3)滑車を支えている腕を持ち上げてストッパを外す。
 (4)錘が少し下がり、ワイヤロープに張力が与えられる。

 しかし、このためだけならばわざわざストッパ付にしなくてもよいことになります。(1)の前半で錘をすでに支えているわけですからそのまま支え続け、ワイヤロープ端部を大滑車内側C部に引っ掛けてから錘の支えを外せばよいわけですね。

6.まとめ

 現品に銘板が取付けられていたので、銘板記載のメーカ(三和テッキ)ホームページhttps://www.tekki.co.jp/を見ると「テンションバランサ 滑車式 ストッパ付」というものが掲載されています。やはり架線断線時の錘落下防止用ストッパ装置だそうです。ただし、上記5項は考えすぎだったようです。

 物の形を見ながら、その機能を考えるというのも楽しいものです。

f:id:me38a:20191022195213j:plain以上
ちかてつ
さかてつでした…