総理大臣官邸の敷地内を地下鉄が走っている話

 各種の地図を見ると、丸ノ内線国会議事堂前駅の西側で総理大臣官邸の北側(敷地外)を通っているように記載されています。しかし、その先の経路がNo.98換気口から20m程度北側にずれてしまっています。現実の経路はどうなっているのでしょうか。

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写真1 総理大臣官邸周辺(1963年)

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写真2 総理大臣官邸周辺(1984年)

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写真3 総理大臣官邸周辺(2009年)

 総理大臣官邸周辺の航空写真(写真1~3)をご覧ください。これらは、国土地理院写真データ(MTK636-C9-19、CKT843-C12-30、CKT20092-C58-19)を基に私が編集・加工したものです。
 写真1~3中の青↓印は、国会議事堂前駅1番出口(写真4)の位置を示します。現在の1番出口は道路に対して妙に斜めになっていますが、参考資料1のP.122先「図79 国会議事堂前駅」を参照すると、現在よりは斜めの度合いが小さい(並行に近い)状態であったことがわかります。丸ノ内線開業後に区画整理されて写真2のように青↓印周辺道路の向きが変わったため、1番出口の方が取り残されたような形で道路に対する斜めの度合いが大きくなったというわけです。

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写真4 国会議事堂前駅1番出口

 参考資料1のP.120先「図77 西銀座・新宿間線路平面図及び縦断面図」によると、丸ノ内線は1番口(写真4)の前を半径190m右曲線で通り、総理官邸前交差点(写真5)を通過しています。総理官邸前交差点は写真1~3中に青・印で示してあります。この交差点に接して左下(南西)に見えるのが、総理大臣官邸の敷地です。

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写真5 総理官邸前交差点

 総理官邸前交差点からは赤坂見附方面に向かって下っていく道があります。公道だと思いますが、写真5の通り常時バリケードが設置されていて一般のクルマは通行禁止です。歩行者に関しては、総理大臣官邸と反対側(北側)の歩道を通行することができます。
 丸ノ内線はこの交差点から約250mの間、一直線に走ります。この直線区間が終わると半径160m右曲線になり、この曲線の途中にNo.98換気口(写真6および8の赤↓印)があります。参考資料1のP.120先「図77 西銀座・新宿間線路平面図及び縦断面図」によると、直線区間の終端部にはNo.97換気口(参考資料1の図77には98と記載)があることになっています。この地点を写真1~3中に黄↓印で示しました。

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写真6 総理大臣官邸北側の坂道

 総理官邸前交差点から総理大臣官邸北側の道を下っていきます(写真6)。写真に写さないよう留意しましたが、実は歩行者よりも警察官の数の方がはるかに多いのです。総理大臣官邸側には歩道がなく、赤外線式検知装置らしきものが数多く設置されています。ところどころ駐車場所はありますが、停まっているのは警察の車両ばかりです。
 写真1~3に記入した黄↓印、すなわち半径160m右曲線が始まる地点にはNo.97換気口があるはずです。写真6の黄〇印あたりということになりますが、接近すると総理大臣官邸敷地内に不法侵入となってしまいます。もう少し手前にはNo.96換気口もあるはずですが、いずれも笹薮の中であり、Googleマップ(航空写真)でも存在を確認できていません。
 写真1~3に記入した赤↓印はNo.98換気口ですが、これに関しては総理大臣官邸北側の坂道からも目視確認できます(写真6赤↓印)。

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写真7 総理大臣官邸北西角

 坂道を下りると総理大臣官邸の北西角に出ます(写真7)。黄〇印の奥の方が、丸ノ内線の直線区間と半径160m右曲線区間の接続点になります。したがって、丸ノ内線は写真7の奥から手前に向かって半径160m右曲線で私の足元に向かって走っていることになります。

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写真8 No.98換気口付近

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写真9 No.98換気口

 No.98換気口は、総理大臣官邸北西角から西側に2~30mのところにあります(写真8赤↓印)。これに関してはNo.も明記されています(写真9)。

 ここでもう一度写真1~3をご覧ください。

 青↓印国会議事堂前駅1番出口(写真4)
 青・印:総理官邸前交差点(写真5:ここから黄↓印まで直線)
 黄↓印:直線と半径160m右曲線の接続部(No.97換気口)
 赤↓印:No.98換気口(写真9)

青・印から黄↓印まで丸ノ内線は一直線に走っていますから、総理大臣官邸の敷地内に食い込んでいます。ちなみにこの区間は35‰勾配で、その多くがルーフシールドトンネルになっています。電車に乗っていてもかなりの勾配であることを感じますし、窓の外を見るとトンネルの天井がアーチ状になっていることがはっきりわかります。

 以上の通り、丸ノ内線は総理大臣官邸の敷地内を走っています。写真2から写真3の間で総理大臣官邸と共に周囲の道路の状況が大きく変わっていますが、丸ノ内線が総理大臣官邸の敷地内を走っていることには変わりありません。

【参考資料】
 1.帝都高速度交通営団編「東京地下鉄道丸ノ内線建設史(下巻)」帝都高速度交通営団(昭和35年)
 2.東京地下鉄編「東京メトロ建設と開業の歴史」実業之日本社(2014年)

【注記】
 国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」でダウンロード可能な空中写真は、出典の明示を行なえば利用可能(申請不要)であり、編集・加工等をした場合はその旨記載が必要です。上記の通り、写真1~3は国土地理院写真データ(MTK636-C9-19、CKT843-C12-30、CKT20092-C58-19)を基に私が編集・加工したものです。