かねやす近くの薄い建物の謎

 本郷三丁目の交差点には「本郷も かねやすまでは 江戸の内」で有名なかねやすがあります(写真1)。そしてその近くには薄い建物(写真2)があります。なぜこのように薄いのでしょうか?

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写真1 かねやす

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写真2 薄い建物

 丸ノ内線A線の電車は後楽園駅を出ると架道橋で白山通を跨ぎ、その先25‰の上り勾配になります。もともと地上よりも高い所を走っているのに25‰という急こう配で上って行ったら空に舞い上がってしまうのではないかと思われるかもしれませんが、心配ご無用です。周囲の地形がそれを上回る勢いで高くなり、丸ノ内線は上り勾配を走っているにもかかわらず地中にもぐってしまいます。次は本郷三丁目駅になります。今回は、この駅付近の真上がどうなっているかを確認しました。

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写真3 春日通

 参考資料1のP.18先「図11 池袋・御茶ノ水間線路平面図及び縦断面図」、P.21「図16 本郷三丁目駅」、さらに参考資料2のP.38~39「池袋-御茶ノ水間線路平面圖及縦断面圖」によると、春日通の下を走ってきた丸ノ内線A線の電車は、半径200m右曲線で春日通から反れて本郷三丁目駅に至ります。写真3の左側に灰色の建物が写っていますが、丸ノ内線は右から半径200m右曲線でこの建物の真下にもぐり込んでいます。また同写真の中央にベージュ色とクリーム色の低い建物が2棟写っていますが、これらも丸ノ内線の真上に建っていると考えられます。

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写真4 本郷三丁目駅周辺

 春日通から本郷三丁目駅に向かって南下しても駅前らしい雰囲気はありません(写真4)が、歩いていくと駅の前に出ます(写真5)。本郷三丁目駅本郷三丁目交差点から少し奥まったところにあり、そのほとんどが民有地の地下になっています。駅前後のみ半径200m右曲線ですが、駅そのものは半径500m右曲線となっています。プラットホームと車両のすきまをなるべく小さくするためであろうと思われます。

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写真5 本郷三丁目駅

 ところで本郷三丁目駅は、その名に反して本郷二丁目にあります。本郷三丁目交差点に近いから名称だけ借用して本郷三丁目としたんだろう…と思っていたらそうではありませんでした。参考資料3で確認したら、駅建設当時は所在地そのものが本郷三丁目だったんですね。その後住居表示変更に伴い周囲は本郷二丁目になり、駅名が取り残された形で本郷三丁目駅のままとなっているのでした。

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写真6 駅前西側風景

 本郷三丁目駅の駅前西側は本郷台中学校です(写真6)。中学校の校庭越しには写真1の「薄い建物」と写真3の「灰色の建物」が見えます。春日通から半径200m右曲線で曲がってきた丸ノ内線トンネルは「灰色の建物」の下を突き抜けていますが、「薄い建物」の下は通っていません。もうお分かりかと思いますが(また冒頭の種明かしになりますが)、実は「薄い建物」ではなく「大きく面取りされた建物」であり、またその理由は丸ノ内線のトンネルと基礎が干渉しないようにするためでした。

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写真7 丸ノ内線真上の風景

 本郷三丁目駅南側には東西方向に走る道があります(写真7)。奥側(東側)が本郷通になりますが、この真下に本郷三丁目駅のプラットホームがあります。写真の左手前から右奥がA線の方向です。しかし、こうして見る限り真下に駅があるようには見えません。
 参考資料1のP.21「図16 本郷三丁目駅」によるとこの道路の左右(南北)に通風口がひとつずつあることになっています。いずれも道路から6~7mほど離れたところですが、道路から見える範囲にそれらしいものを見つけることはできませんでした。またGoogleマップの航空写真で探してもそれらしいものは確認できていません。のちに建設された建物に風道を設けてそこに通風口を接続しているのかもしれませんし、あるいはただ単に建物の陰になっているだけかもしれません。いずれにしても敷地に勝手に入り込むわけにいかず、未確認のままです。

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写真8 エチソウビル

 本郷三丁目駅南側の道(写真7)を東に向かって(本郷通に向かって)歩くと、素敵な建物が見えてきました(写真8)。エチソウビルです。この建物は南西側の一部が本郷三丁目駅のプラットホーム上に位置しているようです。エチソウビルの竣工年を不動産広告で調べてみると1932年(昭和7年)です。一方、丸ノ内線池袋駅-御茶ノ水駅間が1954年に開業しています。ということは、丸ノ内線建設に際して基礎部分を改造している可能性が高そうです。

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写真9 本郷通

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写真10 本郷通(エチソウビル)

 丸ノ内線本郷三丁目駅を出ると再び半径200m右曲線になり、ICNと記されたクリーム色の建物の下を突き抜けて本郷通にもぐり込んでいきます(写真9)。左隣りに建っている窓回りのみ茶色い建物は道路から引っ込んでいますが、丸ノ内線トンネルと基礎が干渉しないようにしたものと思われます。ちなみに写真9右側の茶色い建物は、写真7右奥の茶色い建物、写真8右側の茶色い建物、写真10左側の茶色い建物、これらと同一です。

 さて、参考資料および現地を調べた結果ですが、今回の区間に関してはGoogleマップがほぼ正しく表記されています。Yahoo!地図は本郷三丁目駅の東西両側に関してその経路に不自然さがあります。国土地理院の地形図は経路こそほぼ正しく記されていますが、本郷三丁目駅のプラットホーム位置に誤りがありました。地下の状態を正しく地図に表記するのはなかなかむずかしいようです。

【参考資料】
 1.帝都高速度交通営団編「東京地下鉄道丸ノ内線建設史(下巻)」帝都高速度交通営団(昭和35年)
 2.東京地下鉄編「東京メトロ建設と開業の歴史」実業之日本社(2014年)
 3.人文社編「古地図・現代図で歩く 昭和三十年代東京散歩」人文社(2004年)