書面は手段であり目的ではないというお話

 相手にこちらの意思を伝えるためには(a)~(c)のような(広義の)書面を用います。しかし、これを目的と勘違いするといろいろ問題が発生します。
 (a)共通の台帳などに記入
 (b)伝票送付
 (c)電子メール送信

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 ある工場がありました。本件に関する登場人物は下記の通りです。
  Aさん:製作管理責任者(所定日に所定数、完成納入させる責任を負う)
  Bさん:製作担当者(指示通りに製作する)

 この工場で製作していたある製品は、毎日朝から夕方までの間に1式組立完成させて、当日夕方すぐに顧客納入するという形態を採っていました。基本的に毎日製作であり、そもそもこの工場はとても規模が小さいため、この製品製作に関する連絡は「関係者共有の台帳に記入」という方法としていました。

 ある日のことです。その日…たとえば4/1としておきましょう…は「製作停止」でなければならなかったにもかかわらず、製品が1式完成してしまいました。もちろん4/1に顧客は引き取ってくれないため、余剰となってしまった完成品は丸1日工場で場所を占有することになってしまったのです。この事象の直接的な原因は下記(1)~(3)の通りでした。要するに、Aさんの製作停止連絡が遅くてBさんの作業を止められなかったのです。

 (1)「明日4/1は製作停止」ということに3/31夜気付いたAさんは、3/31の夜8時ごろ、台帳の4/1欄に「本日は製作停止」と記入した。
 (2)一方Bさんは、たまたま4/1の朝から夕方まで出張が入っていたため、3/31は夜7時ごろまで残業して4/1分も追加製作しておいた。
 (3)4/1、Aさんも朝から夕方まで出張(Bさんとは別案件)。夕方工場に戻ってきて事象発生(製作停止の失敗)に気付いた。

 

 今回の事象、Aさんが製作管理責任者ですから、責任元はAさんということになります。「なんで勝手に4/1分を前日3/31に製作しちゃったんだよ!」とAさんは思ったかもしれませんが、もっとまずい点があると考えられます。
 ●今まで台帳に連絡事項を記入していたが特に問題は発生せず
  →台帳記入すれば管理はうまくいく(Bさんはその通りやってくれる)
  →台帳に記入することが重要

 上記のように、Aさんの中では台帳記入そのものがいつの間にか「目的」になってしまっていたようなのです。この工場におけるAさんの存在目的は「所定日に所定数、完成納入させる」です。台帳記入はAさんの意思命令をBさんに伝えるための「手段」に過ぎません。Aさんがその存在目的すなわち責任を果たすためには、Bさんとの十分な意思疎通(たとえば会話)が必要です。機械的に(一方的に)台帳記入するだけでは上記(1)~(3)のようなすれ違いが発生します。

一方通行ではダメなのニャ

 相手にこちらの意思を伝えるため、また記録に残すために各種の書面を用いますが、一方通行では不十分であり、不具合が発生しやすくなります。電子メールを送信したら相手に伝わった…と思い込むのもかなり危険です。書面はそれ自体が目的ではありません。意思の確実な伝達が目的で、書面はその手段に過ぎません。

 一見うまくいっているように見えても、いつの間にやら手段が目的化しているかもしれません。関係者の意識面を時々見直すことも必要なのではないかと思います。

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さかてつでした…