電鉄変電所用水銀整流器

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写真1 水銀整流器

 1983年春、上田交通上田原駅。私は許可を得て構内を撮影していました。現役の車両、廃車体、部品…。そのうち興味深いものを見つけました。ガラス製の水銀整流器(写真1)です。「タコ」という俗称があるそうですが、まさにそのものです。変電所で使用されなくなって放置されていたのだと思いますが、文献でしか知らなかった現物を見ることができて感動的でした。

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 2019年秋、私は某博物館を見学していました。そのうち、ある展示品の前でくぎ付けになりました。水銀整流器です。熱心に展示品を見ていた私に、博物館の方(館長さんだったようです)が「動かしてみましょうか」という信じられないような嬉しいお言葉をかけてくださいました。ご厚意に感謝しながら水銀整流器の動作状態を見学しました。

 陽極と水銀陰極の間が青白く光り、水銀陰極面を輝点がふらふらと泳ぐように動いています。何とも幻想的な光景に見入ってしまいました。

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写真2 各部位の名称

 参考のため、ガラス製水銀整流器各部位の名称を示します(写真2)。この水銀整流器が、幅1.8m程度×高さ2.5m程度×奥行1.5m程度の小部屋の中に据え付けられています。写真2のように、冷却室が上、陰極端子が下になります。陰極をなす水銀は下部に池のように溜まっています。

 水銀整流器はこんなに大きなものなのに、出力は直流1500Vで167A、わずか250kWです。小型の電車1両分にすぎません。変電所にこれを複数台並べて使っていたそうです。博物館の水銀整流器の脇には比較用としてシリコン整流器が置かれていましたが、片手で軽々と持てる程度の小ささです。展示されていた水銀整流器は1961年製、シリコン整流器は1990年代製ですが、たかだか30年程度の間に劇的な技術進歩があったわけですね。何とも感動的でした。

【参考資料】
 1.電気学会編「電気機器工学Ⅱ」オーム社(1965年)