丸ノ内線が国会議事堂の敷地内を走っている理由

 いろいろな地図を見ると、丸ノ内線は国会前庭和式庭園と国会議事堂敷地を走り、その敷地内にある国会議事堂前駅に至るように記載されています。これに対して、「この経路は正しいのか」「なぜわざわざこのようなところを走っているのか」という疑問が生じます。
 結論を先に記してしまうと、丸ノ内線は国会前庭和式庭園と国会議事堂敷地内を走っています。そこで、「どのようなところを走っているのか」「なぜこのような経路になっているのか」ということに関して調べてみました。

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写真1 No.91換気口

 国会議事堂の正面は桜田門交差点の方を向いています。正門から桜田門交差点に向かう道路の左側(北側)には国会前庭洋式庭園、右側(南側)に国会前庭和式庭園があります。この南側の国会前庭和式庭園に入ると、園内に丸ノ内線の換気口があります(写真1)。撮影していると地下から丸ノ内線の音とにおいが出てきました。
 この換気口には番号が表示されていません。建設史(参考資料1)P.120先「図77 西銀座・新宿間線路平面図及び縦断面図」を参照すると、ちょうどこの位置に「92」と番号が記されています。しかしすでに調査した結果より現地と建設史の番号がひとつずれていることが判明していますので、この現地換気口(写真1)はNo.91であると判断しました。

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写真2 No.91換気口

 No.91換気口は園路に対して斜めになっていると共に、園路に接している部分が削られているように見えます(写真2)。当初から園路があったのなら換気口もそれに平行もしくは直角に建設するはずですが、このようになっているということは、丸ノ内線建設後に現在の園路が当初の状態と異なった状態に変更された、あるいは建設されたということが推定されます。

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写真3 国会前庭和式庭園

 写真3は国会前庭和式庭園内を国会議事堂側(西側)から見たところです。黄↓印はNo.91換気口のある場所を示しています。庭園の奥(外)に見えるのは、国土交通省です。丸ノ内線国土交通省の脇の外務省上交差点(写真右側)から半径170m左曲線でNo.91換気口(黄↓印)の下を通り、私の足元に至っています。

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写真4 国会前庭和式庭園入口

 丸ノ内線は引き続き半径170m左曲線で曲がりながら、国会議事堂正門の50mほど南を通過します。ちょうど国会前庭和式庭園の入口があるあたりです(写真4)。左奥にちらりと見える信号機は国会正門前交差点です。余談ですが、この交差点からは国会議事堂の特徴ある建物が正面によく見えます。
 丸ノ内線は、写真4の右奥から私の足元へ向かって走っています。

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写真5 国会議事堂敷地

 国会前庭和式庭園を抜けた丸ノ内線トンネルは直線になり、道路を横切って国会議事堂の敷地(写真5)にもぐり込んでいきます。この写真の右手は上記の通り国会正門前交差点です。この先丸ノ内線は、国会議事堂前駅まで国会議事堂の敷地を斜めに突っ切っています。

 

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写真6 国会議事堂周辺(1963年)

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写真7 国会議事堂周辺(1984年)

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写真8 国会議事堂周辺(2009年)

 さて、冒頭の「なぜこのような経路になっているのか」という疑問に対する種明かしです。まず国会議事堂周辺の航空写真(写真6~8)をご覧ください。これらは、国土地理院写真データ(MTK636-C9-19、CKT843-C12-30、CKT20092-C58-19)を基に私が編集・加工したものです。
 国会議事堂の特徴ある建物が写真左側に見えますが、その右側(東側)の道路の状況が、写真6と写真7の間でかなり変わっていることがわかります。

 赤↓印霞ヶ関
 黄↓印:No.91換気口(和式庭園内)
 青↓国会議事堂前駅1番出口

 丸ノ内線が開業(1959年)してからしばらくの間は、霞ヶ関坂を登り切って国会議事堂を正面に見るあたりで左に曲がり、その後国会議事堂を右に見ながら国会議事堂前駅に至っていました(写真6)。左に曲がるところ以外はすべて道路の真下であり、ごく常識的な経路だったのです。
 しかしその後、国会議事堂周辺の道路が整備(区画整理)されたため、結果として現在(写真7および8)のように、国会前庭和式庭園内に妙な方向で換気口が存在し(写真1および2)、さらに国会議事堂の敷地内を斜めに突っ切っている(写真5)という状態になっているわけです。

 現在の地図で見ると不自然に思える走り方ですが、建設当時の状況をさかのぼって調べるとすんなり理解できるという事例です。ちなみに参考資料3のP.19~20にも本事象に関する記載があります。

【参考資料】
 1.帝都高速度交通営団編「東京地下鉄道丸ノ内線建設史(下巻)」帝都高速度交通営団(昭和35年)
 2.東京地下鉄編「東京メトロ建設と開業の歴史」実業之日本社(2014年)
 3.竹内正浩「地図と愉しむ東京歴史散歩 地下の秘密篇」中央公論新社(2016年)

【注記】
 国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」でダウンロード可能な空中写真は、出典の明示を行なえば利用可能(申請不要)であり、編集・加工等をした場合はその旨記載が必要です。上記の通り、写真4~6は国土地理院写真データ(MTK636-C9-19、CKT843-C12-30、CKT20092-C58-19)を基に私が編集・加工したものです。