筑波鉄道キクハ10形の台車と逆転機の謎

 今から40年近く前に撮影した写真を整理していますが、実にさまざまな発見があります。前回小田急電鉄クハ1650形と比較した筑波鉄道キクハ10形に再び登場してもらいます。…といっても、今回登場するのは台車だけです。ホハ1000形ホハ1001として新製されたときから、いかにもガソリン動車用らしい古くさい台車を履いていました。

1.台車枠

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写真1 キクハ10形の台車

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写真2 TR29(キハ600形の台車)

 キクハ10の台車は、全体的にTR29と似ています。軸距2000mmも同じです。しかしよく見るといろいろ異なっています。いちばん気になるのはリベット締め構造と溶接構造が混在している点で、昔の技術と現在の技術が同居している不自然さを感じます。どうやらTR29あるいはそれと同等の台車を改造したようです。以下、各部の状態とその理由を考えてみたいと思います。

 まず、枕ばね両側にあった鋳鋼製の菱枠柱が帯板(赤□部)に交換されています。これは枕ばねが横2連から3連になったので収納空間を確保するためでしょう。枕ばねを変更した理由としては、台車にかかる荷重が異なるためということが考えられそうです。ただし、ただ単に帯板に交換しただけでは強度が不足するため、補強材(黄□部)が溶接されています。

 次に、TR29の場合は横一直線であった下枠が3本に分割され、中央部の左右が上方に曲げられて軸箱守に青○部で溶接されていることに気づきます。中枠から外さないまま下枠を曲げたためか、中枠との間に隙間(青↑印)が発生しているのはご愛嬌です。このように下枠を3分割した理由は、軸箱の着脱容易化と考えられます。TR29の場合、台車枠から軸箱を抜くためには長さ2670mmもある下枠を中枠から外さなければなりません。下枠を軸箱守の下部と中央部の3本に分割してしまえばこの問題は解決されるわけです。

 さらに気づくのは、軸箱守(緑□部)が鋳鋼製から溝形鋼製に交換されていることです。なぜ交換されたのか考えましたが、これは鋳鋼の溶接性が溝形鋼などの圧延鋼より劣ることが理由であろうと思われます。分割した下枠の中央部左右(青○部)を溶接し、さらに中枠曲げ部に三角形の補強板(緑○印)を溶接しようとしたが、その相手が鋳鋼製では溶接部の信頼性が得られないため、軸箱守を溝形鋼製のものに変更した…ということのようです。

 古い台車を再利用して部分的に改良すれば安上がりだろうと思っていたら、結果として大規模な改造が必要になってしまった…という感じです。

2.逆転機減速比

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写真3 大歯車

 次は逆転機に関してです。写真3はキクハ10形の旧動台車ですが、動輪だった車軸に大歯車が残っています。見えている歯を上から下まで数えると21~22枚(1周で43枚)ですから、逆転機の総減速比は鉄道省キハ41000形(製造初年1933年)の3.489と同じだったことになります(最終段歯数比17:43)。しかし、鉄道省および国鉄においてはキハ42000形(製造初年1935年)以降、一般用気動車と急行用気動車いずれも総減速比2.976(最終段歯数比19:41)に統一されています。

 この頃、常総筑波鉄道はキハ500形(製造初年1959年)を新製しましたが、逆転機減速比は国鉄標準通り2.976でした。それならば、翌年1960年に改造されたキハ510形もキハ500形にそろえて2.976にするのが自然です。ところが機関と変速機こそキハ500形と同一ですが、逆転機減速比はなぜか3.489なのです。ちなみに同和鉱業キハ2100形などは1962年製でありながら減速比3.489ですが、こちらは勾配線区用という事情があり、それなりに筋が通ります。しかし、キハ510形の場合は…筋が通りません。

 この件に関しては、減速比3.489の中古品あるいは手持ち品を利用して費用を低減したという可能性もありそうです。ただし、それが日本車輌製造東京支店に転がっていたものか、あるいは改造に際して常総筑波鉄道から支給されたものかはわかりません。

 以上のように、車体、台車、逆転機など、キクハ10形という車両全体に関して感じるのが、「鉄道会社の要望をかなえながらも、メーカとして既存のものを利用して価格を下げようとあの手この手を使った」ということです。いろいろと背景がありそうですが、よくわかりません。とにかく謎だらけの車両でした。

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ちかてつ
さかてつでした…