【地下鉄好きの方へ】日比谷線は西麻布交差点を通っているか

1.はじめに

 北千住方面から走ってきた東京メトロ日比谷線は、六本木駅を出てからしばらく六本木通の下を走ります。その後、西麻布交差点付近でほぼ直角に曲がり、外苑西通の下にもぐり込みます。多くの地図には、この日比谷線が西麻布交差点のど真ん中でぐいっと曲がっているように記されています。六本木通にしても外苑西通にしてもそれなりに広い道路ですが、本当にこのように曲がっているのでしょうか?

2.資料調査

 まず、国土地理院の地図(https://mapps.gsi.go.jp/maplibSearch.do#1)を確認してみました。最近は正確さが向上しているようなので、どのように記載されているか調べてみたわけです。これによると、日比谷線は西麻布交差点を通っておらず、付近の民有地に大きく食い込んで曲がっています。

 国土地理院の地図が正しければ大半の地図は誤っているということになりますが、逆に国土地理院の地図の方が誤っている可能性もゼロではありません。そこで、日比谷線建設史を確認しました。すると、六本木通から外苑西通に向かって半径163m左曲線で民有地に大きく食い込んでいることがわかりました。やはり、国土地理院の地図の方が正しいようです。

 決定打となったのは空中写真(写真1)です。これには建設中の日比谷線が写っており、交差点近くの民有地を通過しています。国土地理院地図は正しい経路で記載されていますが、大半の地図は誤っているということになります。

3.空中写真

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写真1 1963年6月撮影

 写真1は、日比谷線建設中の状況です。日比谷線霞ヶ関駅-恵比寿駅間が開業したのは1964年3月ですから、この1年近く前ということになります。霞町交差点とは、現在の西麻布交差点のことです。東西方向の道路は現在の六本木通、南北方向の道路は現在の外苑西通です。いずれも当時は細い道で、この下に日比谷線は建設されました。

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写真2 2019年8月撮影

 写真2は現在の状況です。赤い線日比谷線トンネルの位置を示します。トンネルが道路の中央にありませんが、これは日比谷線建設後に道路が拡幅されたためです。特に六本木通の場合は北側に大きく拡幅されて写真1の4倍程度になり、その中央に高速道路が建設されました。結果として日比谷線は高速道路の南側に取り残されたような形になっています。これには驚きました。地下鉄は道路の中央付近を走っているとは限らないのです。

 主要道路が上記のように太くなっている一方で、裏通りは今も変わっていません。写真1と写真2は、この裏通りの位置で照合しました。

4.現地の状況

 写真2からわかるように、現地は建物が密集しています。現在、都営地下鉄新宿線の郊外区間に関しても記事を書いていますが、かなり様相が異なります。

 写真2中の①と③~⑬は建物を、②は建物群を示します。また白い「○数字」は基礎が日比谷線トンネルと干渉していない建物、黄色い「○数字」は日比谷線トンネルの上に建っている建物です。

 かなり建物の数が多いので、今回は曲線の外側から見た状況を記事にします。曲線内側から見た状況は次回といたします。

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写真3 六本木通

 写真3は、六本木通です。奥には西麻布交差点を示す道路標識が見えます。

 写真3手前(東)から走ってきた日比谷線は、私の足元を通って建物①をかすめ、建物群②の下にもぐり込んで行きます。奥に見える建物⑥の下は通っていません。

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写真4 建物①

 写真4は、建物①です。日比谷線は写真左奥から半径163mで写真右の方に曲がって来ますが、この曲線トンネルを避けるように建物①は大きく欠き取られています。

 ところで写真2を参照すると、建物①の「欠き取られた後の建物本体」北西角に日比谷線トンネルがさらに食い込んでいるように見えます。現地で確認したら、その部位は写真4に①と記入した部分のようになっていました。建物がオーバーハングしており、トンネルと干渉しない基礎構造になっていたのです。

 なお、欠き取り部に建つ交番は2階建と低いので、トンネルに対する荷重として問題ありません。

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写真5 六本木通の南側

 写真5は、六本木通の1本南側の裏通りです。日比谷線は、右に見える建物群②の下を斜めに突っ切り、左奥に見える建物③の下に曲線でもぐり込んで行きます。いちばん奥に建物⑦が見えますが、日比谷線トンネルはこの建物のすぐ脇(左手前)を通過しており、建物⑦の基礎とは干渉していません。

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写真6 六本木通の南側

 写真6は、写真5と同じ裏通りを反対側から見たところです。いちばん奥に建物①が見えます。日比谷線は建物①の左側から右手前に向かって半径163mという急曲線で曲がって来ます。日比谷線は左に見える建物⑥の下は通っていませんが、右に見える建物④と建物⑤の下を斜めに突っ切っています。

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写真7 六本木通の南側

 写真7も、写真5および写真6と同じ六本木通南側の裏通りです。正面に見えるのは建物⑤で、日比谷線はこの奥の方を斜めに突っ切っています。右に見えるのは建物⑦ですが、基礎はぎりぎりのところで日比谷線トンネルと干渉していません。

 

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写真8 西麻布交差点

 写真8は、西麻布交差点から外苑西通を見たところです。ここに写っている建物⑨~⑫の下に日比谷線トンネルがあるのですが、そうと知らないと全くわかりません。

 

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写真9 日比谷線トンネルの真上

 写真9は日比谷線トンネル真上の状況です。日比谷線は、建物⑩の裏をかすめ、建物⑫の真下を通り、建物⑬の目の前をすり抜けて外苑西通にもぐり込んでいます。

 ところで、建物⑬の斜め壁面が日比谷線トンネル側壁の位置だとすると、この壁面から突出している部分の基礎がトンネルと干渉するはずです。そこで、貸しビルサイトで間取り図を確認したところ、下記のようなことがわかりました。

 

 (1)建物の柱6本は、すべて斜め壁面の内側
  (すなわち、基礎と柱はトンネルと干渉せず)
 (2)左側突出部の内部はエレベータ
  (内部は空洞であり、エレベータは上層階で支持)
 (3)右側ガラス部は明かり窓
  (ガラス部支持用の基礎は無い)

 つまり、エレベータ部とガラス部はトンネル上部ですが、建物本体からオーバーハングした状態であり、トンネルに過大な荷重がかからない構造になっているわけです。

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写真10 日比谷線トンネルの真上

 写真10は、日比谷線トンネル真上の状況です。建物⑩は奥がトンネルと干渉していますが、壁面を斜めに切り落としてトンネルに大きな荷重をかけないよう工夫されています。建物⑫は単純にトンネルの真上です。

 一方、建物⑪はトンネルの脇です。壁面を斜めにして基礎の干渉を避けています。

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写真11 日比谷線が出てくるところ

 写真11は、日比谷線トンネルが建物⑬の前を通って外苑西通に出てくるところです。

 建物⑬壁面が斜めになっているのは、写真9で説明した通り日比谷線トンネルとの干渉を避けるためで、エレベータ部とガラス部はトンネルに過大な荷重をかけないようになっています。

 歩道の端にはNo.175換気口があります。

 

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写真12 No.175換気口

 写真12は、No.175換気口を写真11の反対側から見たところです。

 日比谷線トンネルは、建物⑬の茶色い石張り壁面のすぐ左側の地下にあります。換気口がトンネルの存在を主張しているようです。

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写真13 外苑西通

 写真13は、外苑西通西側の歩道から撮影したところです。よく見ると、建物⑫が谷間になっていることがわかります。

 日比谷線は、建物⑨と建物⑩の奥、建物⑫の真下、建物⑬のすぐ脇(ガラス部の下)を通り、外苑西通の下にもぐり込んできます。

 

5.まとめ

 多くの地図において、日比谷線は西麻布交差点の中でぐいっと曲がるように記載されています。しかしこれは誤りで、現実には民有地に大きく食い込みながら曲がっています。この日比谷線トンネルの上には数多くの建物がありますが、建物の形状はトンネルの影響を受けていることがわかります。

 次回は、曲線内側から見た現地状況をご報告します。

f:id:me38a:20191022195213j:plain以上
ちかてつ
さかてつでした…

【注記】本ブログ中の空中写真は、国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」よりダウンロードした写真データを私が編集・加工したものです。