1.はじめに
一般的に「地図は正しい」と思われているようです。Yahoo!地図、Mapion、Googleマップなどを参照すると、地図と航空写真(空中写真)がパッと出てきます。地図というものは航空写真(空中写真)を基にして作成しますから、地上に関してはそんなに間違ってはいないというのはわかります。それでは地下はどうでしょう?
今回は多くの地図においてその経路が誤っている地下鉄路線の事例です…が、その前にこんなお話があります。
2.トンネルに掘削機が貫通したお話
2019年7月、珍妙なる事故が発生しました。JR九州の長崎本線トンネルで、天井から内部に貫通した掘削機に走行中の特急電車が接触破損したのです。
報告によると…井戸試掘に先立ち国土地理院の地図を用いてトンネル位置の確認を実施。掘削場所はトンネルから80mほど離れていたため問題ないと判断。ところが掘削したら事故発生…。なぜトンネル内に貫通してしまったかというと、実は地図が誤っていたのです。
この事故の原因を聞いた時、「地図を信じ切っている人がいる」ということに大いに驚きました。街歩きの際、道路が地図通りでない事例は数多く経験しています。ましてや地下に関しては、「地下鉄はどこを走っているか」シリーズのネタとなるぐらい、地図はあてにならないものなのですが…。
3.地図記載の浅草線位置は最大50mほど誤っている
前置きが長くなってしまいました。本題です。
都営地下鉄浅草線は、隅田川を渡ると本所吾妻橋駅に停まり、その次は押上駅になります。その間の経路を各種の地図で調べてみてください。どういうわけか多くの地図において、写真1の「誤」経路で記載されています。浅草線の建設史および現地調査により確認した正しい経路は「正」です。その差は最大約50m。
写真2は、浅草橋駅-押上駅間開業(1960年12月)の3か月後の状況です。浅草線は本所吾妻橋駅の東半分から半径800m曲線で少し北に進路を変え、徐々に浅草通の下から外れ始めます。業平一丁目交差点付近では浅草通の下から完全に外れており、東武橋の南側を進んでいます。このあたり、トンネル掘削跡(「正」の経路)がはっきりわかります。
この先浅草線は北十間川と緩い角度で交差し、その河底で半径200m左曲線により進行方向をさらに北に振って押上駅に向かいます。
4.本所吾妻橋駅
多くの地図によると、本所吾妻橋駅は一直線ということになっています。しかし、浅草線建設史記載の図によると駅の東半分は北側に半径800mで曲がっています。もちろん現地(写真3)も建設史記載通り、奥(東)の方で緩やかに左(北)に曲がっています。つまり、地図は正しくないのです。
浅草通の北側歩道にあるA5出口は、押上方面行プラットホームに至るエレベータです。エレベータで地下に下りると改札口がありますが、床のタイル目地を見るとプラットホームが斜めになっていることがわかります(写真4)。
この小さな角度を維持したまま、浅草線は浅草通の下から北十間川の下にじわじわともぐり込んでいるのです。
5.まとめ
地図の記載は必ずしも正しくありません。特に地下に関して数10mずれていることは珍しくありません。都営地下鉄浅草線の本所吾妻橋駅-押上駅間においても最大50mほど記載位置ずれがあります。
地図の利用に際しては注意が必要です。
以上
ちかてつの
さかてつでした…
【注記】本ブログ中の空中写真は、国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」よりダウンロードした写真データを私が編集・加工したものです。