【鉄道技術好きの方へ】電車用パンタグラフの上げ下げ

f:id:me38a:20200525191021j:plain

1.はじめに

 1950年代後半から1980年代初頭までの四半世紀に登場した、いわゆる「国鉄新性能電車」に関する記事です。今回は電車用パンタグラフの上げ下げに関する内容です。

2.バネで上げて空気で下げる

 国鉄新性能電車の標準的なパンタグラフは、バネの力で上昇します。もちろん上昇したままでは具合が悪いので、下げた状態を維持するためのカギ装置があります。

 それでは上昇しているパンタグラフを下げるためにはどうするかというと、下げシリンダに圧縮空気を入れて(バネを伸ばしながら)降下させます。降下し切ったところでカギに引っ掛かり、下げ状態で固定されるわけです。降下動作中は圧縮空気を送り続ける必要がありますが、いったんカギに引っ掛かってしまえば圧縮空気を送り込まなくてもパンタグラフは下げ状態を保ちます。

 逆に下げ状態のパンタグラフを上昇させる場合は、カギ装置の小シリンダに圧縮空気を入れてカギを外します。あとはバネの力で上昇します。圧縮空気を送り込む必要があるのはカギを外す時のみです。

3.現物の構造

f:id:me38a:20200130204950p:plain

写真1 PS16形パンタグラフ

 PS16形パンタグラフ(写真1)は153系電車用に設計され、その後長い間国鉄新性能電車の標準となりました。
 
 写真1を見ると、大きなバネが2本あります。カギ装置の小シリンダに圧縮空気を送り込んでカギをツナギ管から外すと、このバネの力によって主軸が回されパンタグラフは上昇します。ツナギ「管」と称していますが、パンタグラフの左右の◇形をつないでいる「管」材(構造部材)という意味であり、別に圧縮空気等を通しているわけではありません。

 下げる場合は、下げシリンダに圧縮空気を送り込みます。するとピストンが①方向に動きますので、主軸が②方向に回され、パンタグラフ全体が下がります(③)。降下し切ったところでツナギ管がカギ装置に引っ掛かり、下げ状態を保ちます。

f:id:me38a:20200130205116j:plain

写真2 モハ103-260の屋根上

 屋根上を見ると、パンタグラフに付帯しているものがよくわかります(写真2)。

 いちばん目立つのが高圧線です。架線から電流を取り入れるためのものですが、パンタグラフの上げ下げとは関係ありません。

 次に目立つのが2本の空気管です。これらはそれぞれ電磁弁(通電することにより空気の通路を切り替える弁)に接続されていて、どちらの空気管に圧縮空気を送り込むかによりパンタグラフを上げ下げします。圧縮空気がない場合はどうするかというと、引棒を引っ張ります。そうするとカギが外れてパンタグラフは上昇します。

 ところで余談ですが、2本の空気管に同時に圧縮空気を送り込んだら、すなわち上げ指令と下げ指令を同時に出したらどうなるでしょうか。この場合、下げシリンダに入った圧縮空気によりパンタグラフは降下します。ただしカギは外れたままです。

 では逆にいずれの空気管にも圧縮空気を送り込まない場合はどうなるでしょうか。答は、上昇していれば上昇したまま、降下していれば降下したままです。実はほとんどが「いずれの空気管にも圧縮空気を送り込まない」で、空気管に圧縮空気を送り込むのはパンタグラフを上げる時と下げる時のみです。

4.まとめ

 電車用パンタグラフは一般的に、バネで上げて圧縮空気で下げます。上げる際はカギ装置を圧縮空気で動かしますので、上げ下げいずれもその指令と動作は圧縮空気によっています。2本ある空気管のいずれに圧縮空気を送り込むかにより、パンタグラフは上げ下げの動作をします。

f:id:me38a:20191022195213j:plain以上
ちかてつ
さかてつでした…