【地図好きの方へ】東京メトロ東西線が大手濠の中を走っているお話

1.はじめに

 一般的に地下鉄は民有地の用地買収を減らすため、道路の真下に建設されます。ところが、東京メトロ東西線竹橋駅から大手町駅まではそのほとんどがお濠の水の下に建設されています。これには内堀通と永代通が関係しています。

2.走行可能な経路にしたら大手濠の中に入り込んだ

 東西線は西の方から都心へ、飯田橋駅→(目白通)→九段下駅→(内堀通)→竹橋駅と入り込んできます。一方、都心から東方向へ永代通の真下を東に走っていきます。

 竹橋駅から大手町駅まで素直に内堀通と永代通の下を通せばよさそうですが、大手門交差点で直角に折れ曲がるため、民有地に大きく食い込んでしまいます。

 このような事態を避けるため、まず大手町駅を永代通の南側に寄せました。しかしこれだけでは足りません。現在の技術ならトンネルが食い込む建物のアンダーピニング(基礎の下受け)を実施してシールド工法によりトンネルを建設する…ということができますが、当時の技術では無理があります。

 「大手濠の中にケーソン工法で建設」というのは、各種制約の中での現実解だったわけです。それでも大変だったと建設史に記載されています。

3.大手濠から大手町までの状況

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写真1 空中写真(2019年5月)

 東西線竹橋駅を出ると半径203.3m右曲線で曲がり、大手濠を直進します。その後半径203.2m左曲線で内堀通と斜めに交差し、大手門交差点角の民有地をかすめて永代通に入り込みます。その先に大手町駅があります。

 黄色の点線ケーソン工法(巨大な角パイプを水中接続)の区間青い点線は開削工法(地上から掘削)の区間です。

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写真2 竹橋駅2番出口

 竹橋駅東側の半径203.3m曲線部には陸地区間があり、改修工事中の2番出口と換気塔(写真2)が並んでいます。

 東西線建設史によると、ここにはNo.92換気口とNo.93換気口があったはずですが、No.90~91換気口と統合した形で、換気能力の高い換気塔につくり直したようです。

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写真3 大手濠周辺

 竹橋駅2番出口(写真2)南側には大手濠(写真3)が広がります。東西線トンネルはこの下をまっすぐ右奥に向かって走っています。

 仮に大手濠の中を走らずに内堀通(写真3中の樹木が並んでいるところ)を走ったとすると、正面に見える建物群の真下を突き抜けないと永代通の下にもぐり込めません。

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写真4 No.94換気口

 さて、東西線トンネルは大手濠の中を走っているため、忍者でない私はその真上を歩くことはできません。よって、内堀通を南下しながら現地状況を確認します。

 内堀通を歩いていくと、大手濠脇の歩道にNo.94換気口(写真4)が見えてきます。奥には大手門交差点が見えます。東西線電車は右手前から半径203.2mという急曲線で左奥に曲がっていきます。

 換気口からは急曲線を通過する電車の音が聞こえてきます。換気口が茶色く汚れているのは、急曲線に伴う車輪摩耗粉が付着して錆びているためです。

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写真5 No.94換気口と大手濠

 No.94換気口(写真4)の上で体の向きを180度回すと、大手濠が見えます(写真4)。奥から走ってきた東西線の電車は、急曲線で右手前に走っていきます。

 

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写真6 No.95換気口

 内堀通の東側にはNo.95換気口(写真6)があります。内堀通の向こう側の風景は申すまでもありませんが写真5と同じです。

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写真7 No.95換気口と大手門交差点

 No.95換気口のすぐ南は大手門交差点です(写真7)。こうして撮影している間にもフランジをきしませながら東西線電車が通過する音が聞こえてきます。換気口が茶色く汚れているのもNo.94換気口(写真4)と同様です。

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写真8 大手門交差点

 大手門交差点(写真8)では、内堀通に永代通がT字状にぶつかっています。

 写真8中に白い車が写っていますが、この左側7~8mのところにNo.95換気口(写真6および写真7)があり、その下に東西線トンネルが半径203.2mという急曲線で左右方向に建設されています。

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写真9 永代通

 似たような名前ですが、私が立っているところは大手門交差点で、そこから大手町交差点を見た状態が写真9です。東西線トンネルは私の足元から永代通(写真9)の南側(写真右側)に曲がりながら伸びています。

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写真10 大手町駅

 東西線大手町駅は永代通の真下にあります。大手町交差点付近の永代通のど真ん中で西船橋方面(東側)を見ると(写真10)、写真左側(永代通の北半分)は通路で、写真右側(永代通の南半分)が東西線の駅施設になっていることがよくわかります。

 さらに、奥に向かう(東に向かう)にしたがって東西線駅施設の幅が広がっていくこともわかります。

 このように東西線の位置を南側に位置させたことにより、大手門交差点における民有地食い込みを最小限にできたわけですね。

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写真11 西船橋方面(A線)ホーム

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写真12 中野方面(B線)ホーム

 大手町駅のプラットホームを見ると、A線(西船橋方面)のみ膨らんでおり(写真11)、B線(中野方面)は一直線です(写真12)。大手町駅西側は上記の通り永代通南側に片寄っているため、A線のみ膨らませて、駅全体としての中心線を永代通中心線に合わせるようになっています。ちなみに大手町駅東側では、A線とB線いずれも緩いS字曲線を描いて複線間隔になっていきます。

4.まとめ

 地下鉄は一般的に民有地への食い込みを無くすため、道路真下に建設されます。しかし、東京メトロ東西線竹橋駅から大手町駅までは、民有地への食い込みを最小限にするため、お濠の水の下に建設されました。

f:id:me38a:20191022195213j:plain以上
ちかてつ
さかてつでした…

【注記】
写真1は、国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」よりダウンロードした写真データ(CKT20195-C3-9)を私が編集・加工したものです。