鉄道車両「ツナギ」のお話

1.はじめに

 鉄道好きの方なら「電車ってどのようにして走るのか?」と疑問に思ったことがあるでしょう。そして、鉄道図鑑のようなものから始まり、そのうち鉄道雑誌(鉄道ファン、鉄道ピクトリアルなど)に進んで行ったのではないでしょうか。
 私も中高生の頃、これらを次々に読んだものです。しかしこれらに記された説明を読んでも実物の車両に関して理解できないことが山のようにあり、「なぜ? なぜ?」と思い続けていました。

 大学時代、神保町をぶらついていたある日のことです。何気なく入った東京堂書店で「教本」に出会ったのでした。一般的な鉄道書籍に関しては書泉グランデが品ぞろえの良さで有名でしたが、当時は書泉グランデでもこの教本を取り扱っておらず、東京堂書店で発見した時は「何なんだ? 異常に詳しいこの本は?」と思ったものでした。
 教本が詳しいのは当然の話で、実は「本業の人」向けの本だったのです。私が魔窟を発見し、泥沼にはまり始めた瞬間でした…。

2.電車のツナギ

 最初に買った本は「電車制御回路ツナギ解説」だったように思います。お値段なんと280円。しかし、180ページほどの薄っぺらの本の中身は、鉄道ピクトリアル(各種鉄道雑誌の中でも比較的技術的内容が多い)などとは比べ物にならないぐらい濃いものでした。もちろん、読んですぐに理解できたわけではありません。
 まず「ツナギって何だ?」から始まりました。これは「接続、配線、結線」という意味であることがすぐに判明しました。
 次に理解できなかったのが、主回路ツナギと制御回路ツナギの関係でした。主回路ツナギには鉄道雑誌によく出てくるCS10という主制御器の形式が記載されているし、制御回路ツナギにも主幹制御器というなじみ深い言葉が出てくるので、それぞれのツナギが意味しているところはなんとなくわかりました。しかし、このふたつのツナギが頭の中でつながらなかったのです。
 その後、もう少し絵が多くて新しい内容の(CS15系の主制御器まで収録されていた)「電車の機器とツナギ」という本も買ったのですが、理解度は向上しませんでした。

3.主回路ツナギと制御回路ツナギ

 主回路と制御回路、ふたつのツナギがつながったのは、当時万世橋にあった交通博物館で、101系のCS12主制御器の動作を見ていた時だったように思います。「そうか! 主回路カム軸と制御円筒でふたつのツナギがつながっているんだ!」と気づいたのでした。主回路と制御回路という電気回路だけで考えていたのではダメで、その間に主回路カム軸と制御円筒という「機械」が存在していることを認識する必要があったのです。

 「電車と称しているけれど、こんなにも機械的なもので動かしているのか…」と驚きを感じた瞬間でもありました。ツナギに関する2冊の本を購入してから数か月後のことでした。

4.まとめ

 電車の主回路とは、人間に例えれば「心臓と動脈と筋肉」のようなものです。架線から取り入れた電気で電動機を回転させるための回路です。
 一方、制御回路とは「脳と神経」のようなものです。各装置(各臓器)がどのように動いているかを検知し、それに対してどのように指令を与えるか…そのための回路です。

 ちなみに、多くの鉄道好きは車両、それも外観に関して興味を持つに留まるようです。鉄道の本は山のように発行されていますが、いずれも外観に関するものが主体であり、どのように動くかということに関する本はかなり限定的で専門的になります。
 人間に関しても外観や装いに関する本は山のようにありますが、人体の内部構造および行動に関する本は限定的かつ専門的ですね。どの分野でもこういうものなのかもしれません。

【参考資料】
 1.丸山広弥「電車制御回路ツナギ解説」交友社(昭和33年)
 2.伊藤礼太郎他「電車の機器とツナギ」交友社(昭和51年改訂)

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ちかてつ
さかてつでした…