日比谷線はどこを走っているか(その5) 広尾五丁目付近

日比谷線は比較的道路の下を走っている方ですが、それでも民有地の下を突っ切っているところがあります。今回は、日比谷線としていちばん規模が大きい「道路下からの逸脱」区間に関してです。取り上げる区間はすべて広尾五丁目に含まれます。

建設史P.254先の平面図および縦断面図によると、広尾駅を出た日比谷線の電車は、半径163m右曲線でほぼ90度向きを変えます(南向き→西向き)。広尾駅の平面図はP.286図21に示されています。

現地の状況に関して以下記します。

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写真1 広尾駅2番出口

広尾駅外苑西通りの真下にあります。写真1は2番出口の状況ですが、歩道のすぐ脇(地上)に改札口があります。地下鉄としてはちょっと不思議な光景です。一方、外苑西通り反対側(東側)の1番出口は地下に改札口があります。なぜこのような差異があるかですが、建設史P.286図21広尾駅平面図を見ていると何となくわかります。すなわち、広尾駅のプラットホーム南端から半径163m右曲線が始まっているため、西側(2番出口側)の改札口を地下に設けるとトンネル内の通路幅が広くなり、民有地に食い込んでしまうのです。トンネルが民有地に食い込むと用地買収をしなければなりませんから、そのような事態を避けるため、地下には通路だけを設け、改札口は地上に設置することにしたのでしょう。ちなみに、写真1の私が立っているあたりはすでに日比谷線トンネルが右に曲がっていて、歩道の下にもぐり込み始めています。

ところで、外苑西通り広尾駅付近は渋谷区と港区の区境になります。なぜ区境になっているかというとここに笄(こうがい)川があったからですが、川は暗渠(下水渠)として外苑西通りの下に現在も存在しています。日比谷線建設に伴い、広尾駅の北千住方面線路建設予定地にあったこの下水渠を中目黒方面ホーム上部に移転した旨、建設史P.426に記載があります。

 

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写真2 広尾プラザ

みなさまご存知の広尾プラザです。このあたりの顔といった感じのビルですが、ご覧の通り壁面が外苑西通りに対して斜めになっています。もちろん意匠性も考慮したと思いますが、すぐ脇を日比谷線が走っているためにこのトンネルを避けたという理由の方が大きいように感じます。

 

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写真3 広尾プラザのガレリアエントランス

ここが高層棟と低層棟の境目になっており、右側に見える低層棟の下を右から奥へ向かって日比谷線が半径163mで曲がりながら走っています。

 

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写真4 住宅地の中の換気塔

この写真の左奥に広尾プラザ「斜めの壁面」が見えます。日比谷線は左奥から手前に向かって走っています。写真4左下にはメトロの管理板が取り付けられた黒いフェンスがあります。

 

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写真5 換気塔

写真4のフェンスの中を見ると…このような換気塔(赤↓印)が見えます。もちろん、日比谷線のものです。

 

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写真6 広尾弁財天の参道

写真4の場所で180度振り返って見たところです。日比谷線は私の真下あたりを右手前から奥に向かって走っています。奥に見えるのは広尾弁財天で、この左側(南側)に日比谷線トンネルがあります。弁財天そのものは日比谷線の真上ではありません。

 

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写真7 広尾児童遊園地

広尾弁財天の脇を抜けると、この「遊園地」があります。「公園」ではないところがその由来を物語っています。ここは日比谷線トンネルの真上です。園内北西隅にトイレがありますが、その隣に白いフェンスに囲まれた構造物(赤↓印)があります。換気塔です。園内のベンチに座ってぼけーっとしていたら、換気塔からごーっという電車の走行音が響いてきました。この写真の左奥に広尾プラザがちらりと見えていますが、日比谷線は広尾プラザの方から手前に向かって走っています。

 

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写真8 広尾児童遊園地内

換気塔と反対側(東側)から園内を撮影したところです。私は日比谷線の真上に立っています。前方(西方)両側にはそれなりの高さを持つ建物が建っていますが、日比谷線トンネル上には低い建物しかないことがわかります。

 

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写真9 日比谷線直上の建物

奥の方に広尾児童遊園地が見えます。日比谷線は奥から左手前に向かって走っています。左手前に見える黄土色の建物は日比谷線トンネルの真上です。

 

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写真10 日比谷線の真上

写真9の場所で180度振り返って見たところです。位置関係から推測すると、ナチュラルローソンの建物の一部(歩道に面したあたり)は日比谷線トンネルの真上である可能性大です。日比谷線はこのまままっすぐ奥に(西に)明治通りへ向かっています。ここまでの走行経路、換気塔の位置(後述)などから推測すると、日比谷線トンネルはこの道路に対して平行ではなく、4~5度程度の角度で少しずつ左側(南側)にずれながら走っていると考えられます。

 

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写真11 上方が欠き取られた建物

明治通りへ向かう途中に、上方が欠き取られた建物(ベージュ色の建物)があります。その脇(赤↓印)にメトロの管理板が取付けられたフェンスがあります。

 

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写真12 換気塔

フェンスの中を見ると…日比谷線の換気塔があります。建設史によるとこのあたりの日比谷線トンネルは直線ですから、この換気塔付近から民有地の下に緩い角度でもぐり込んでいることになります。写真11の建物の上方が欠き取られているのは、日比谷線トンネルに過大な荷重がかからないようにするためと考えられます。写真11をよく見ると、右奥の淡緑色の建物は道路側がオーバーハングしています。つまり、道路に面したところには柱とその基礎がないということになります。これも日比谷線トンネルと干渉しないようにするためでしょう。

 

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写真13 オーバーハングしている建物

明治通りから日比谷線の真上を見たところです。赤↓印は写真11および12の換気塔があるところです。それより手前の建物はいずれも道路側がオーバーハングしています。右手前に明治通りとの間にある広尾五丁目交番が見えますが、この交番は半分以上日比谷線トンネルの真上にあるはずです。

 

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写真14 明治通り南側の換気塔

明治通りを挟んで、広尾五丁目交番の向かい側(南側)には「88(HACHI HACHI)」という焼肉レストランの広尾店がありますが、この建物の脇(西側)にこの換気塔があります。この先も明治通りの南側歩道に換気口がありますが、北側の歩道には換気口がありませんでした。どうやら日比谷線明治通りの中央ではなく、南寄りを走っているようです。建設史P.427には道路幅が16mと狭かった旨記載がありますので、明治通りはこのあたりにおいて北側に拡幅したものと推定されます。

88(HACHI HACHI)が入っている建物の南(渋谷川の脇)には臨川(りんせん)四季の森という公園があります。ここは渋谷川から引き入れた水力で水車が回っていたところ(広尾水車)の跡地だそうです。実は、この公園のベンチに座ってのんびりしていたら写真14の換気塔の反対側(南側)が目に留まった…という次第です。効率重視でせかせかやっていたのでは重要な物事を見落とすよ…と教えられたように感じました。

参考資料
 1.帝都高速度交通営団編「東京地下鉄道日比谷線建設史」帝都高速度交通営団(昭和44年)
 2.東京地下鉄編「東京メトロ建設と開業の歴史」実業之日本社(2014年)